大ブーイングを浴びても成立を急ぐ…岸田政権が「子育て支援金」にすべてを賭けている本当の思惑
国民の反発が渦巻くなか、子育て支援金制度に関する法案が成立する。いったいなぜこんな問題だらけの制度の導入を決めたのか。過程をたどると、総理と財務省、それぞれの思惑がわかってきた。
前編記事『毎月負担増の「子育て支援金」はすべてここに書かれていた…!元高級官僚が執筆した「日本の未来」を予測するヤバすぎる本の中身』より続く。
子育て支援制度への非難のわけ
「増税によってではなく、医療保険料から徴収したおカネを使う『子ども保険』というアイデアに総理はひどく感心しました。しかも、優秀な官僚が書いたということで、ほぼそのまま現実に応用できる内容です。
岸田総理は山崎さんのもとに秘書官を派遣し、『内閣参与となって、岸田政権の少子化対策を支えてほしい』と打診しました。山崎さんは固辞しましたが、再三の説得に総理の本気を感じ取り、内閣参与に就任。総理周辺と入念な打ち合わせを重ねて『子ども・子育て支援金制度』の策定に全力を注いだのです」
日本を救うための一手として考え抜いたアイデア。それがこんなに批判を浴びるとは思ってもいなかっただろう。
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「国会での議論やメディアの論調を見て、制度の『生みの親』である山崎さんは『総理の説明が足りないな……』と落胆していると聞きます」(同前)
理念自体に問題はなかった。制度もよくできている。ただ、その必要性を国民に理解してもらうための総理の真摯な説明が足りなかった。これが子育て支援金が集中砲火を浴びた最大の理由だ。
この失敗を横目に、薄ら笑いを浮かべているのが財務省の官僚たちだ。
実は、この支援金制度の策定には、財務省出身の官僚が深く関わってきた。その筆頭格が、岸田政権で首相秘書官を務める一松旬氏だ。
東大法学部を卒業後、’95年に大蔵省入省。厚労担当の主計官などを務め、社会保障政策に精通した財務官僚で、昨年7月に首相秘書官に起用された。
「誰もが財務省のエースと認める人物。頭が切れるのは言うまでもなく、物怖じせず、政治家にもはっきりとモノをいう姿勢が評価されています」(財務省中堅官僚)
実は一松氏を中心とする財務省の官僚は近年、厚労省へのいらだちを抱えていた。この財務官僚が続ける。
「財政危機を憂う財務省は、とにかく国全体の歳出を削減したい。ところが、その意向に反するように、厚労省は医師らの人件費を上げようと診療報酬の増額を求めてくる。結果、社会保障費は膨らむ一方で、財政を逼迫させています」
’19年11月に開かれた財政制度等審議会では、財務省の官僚らが「財政再建には医師らの人件費の削減が必須」と訴えると、医師会がバックに控える厚労省は「むしろ医療従事者の賃上げが求められている」と主張、最終的には医師らの人件費が引き上げられた。
小説の驚きの「提案」
このとき、真正面から厚労官僚と激しくぶつかった財務官僚の一人が一松氏だった。雪辱を果たすため、一松氏らが目を付けたのが「子育て支援金制度」なのだ。前出の官邸関係者が解説する。
「子育て支援金が導入されれば、国民の毎月の負担が増えることになる。当然『実質負担はないといってたのはウソじゃないか!』と怒りの声があがります。そうなると政府と厚労省は子育て支援金で増えた分の国民の負担を減らすために、社会保障費の抑制・削減に着手せざるを得なくなる。
国民の批判の目を社会保障費に向けさせるために、財務官僚たちは制度に反対せず、むしろ総理の背中を押した。いつも消費税ばかりに不満の矛先が向けられているが、本当は社会保障費のほうが問題だらけだという本音が彼らにはあるわけです」
もう一つ、財務官僚たちにはこんな狙いもあるという。
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「医療保険料を徴収して集めたおカネの使い道も、現状は少子化対策のために使われるとしていますが、一度でも『目的外使用』を許せば、今後さまざまな施策の財源として使われる可能性もある。極端な話『未来の子どものためには防衛も大事だ』と、徴収したおカネを防衛費に回すことも理論上は可能となります」(前出・官邸関係者)
穴だらけとわかっていながら、財務官僚らも子育て支援金制度を「日本の人口問題の解決には必須」と後押しした。岸田総理も「一松秘書官らも後押ししてくれるなら間違いない」と自信を持ってこれを推し進めた。
結果的に国民の総理への不信は高まり、厚労省は今後社会保障費の削減に取り組まざるを得なくなる。同時に財務省は労少なくして新たな財布を得た。結果は財務省の一人勝ち、というわけだ。
まんまと罠にハマったのか。それとも罠を承知で「それでも少子化対策のためにこの制度は必要だ」とあえてハマりにいったのか。総理の本心は見えないが、確かなのはこれから国民の負担が一層増えるということだ。
なお、小説『人口戦略法案』では、国民一人当たりの負担額は「月額平均3600円」とされている。最終的には負担額はここまで上げられることを覚悟しておいたほうがよさそうだ。
「週刊現代」2024年5月11日号より