動物虐待批判の「上げ馬神事」、対策で「安心して見られた」が…地元住民は「迫力なくなった」
大勢の観客が詰めかけた「上げ馬神事」(4日、桑名市で)=稲垣政則撮影
人馬一体となって高さ約2メートルの土壁を乗り越える多度大社(三重県桑名市)の伝統行事「上げ馬神事」は、動物虐待との批判を受け、今年から様変わりした。関係者らは4日の初日の神事を終えて安堵(あんど)する一方、観光客や地元住民からは「安心して見ることができた」「迫力がなくなった」など様々な声が聞かれた。(倉橋章、松岡樹)
今年の神事では、馬が走る道に砂がまかれ、坂の勾配が緩やかになった。頂上にあった約2メートルの土壁は撤去された。若者を乗せた6頭の馬が坂を駆け上がると大きな歓声が上がった。
馬の乗り役を指導した中村勇さん(60)は「乗り役が興奮して馬にムチを入れてスピードを出しすぎるところもあったが、全体的にうまくいった」と評価。一見勝之知事は「4日時点では人にも馬にも安全な神事として、無事に開催できたと承知している」とのコメントを発表した。
名古屋市から訪れた男性(43)は「神事の変化は時代の流れ。客が安心して見られるようになって良かった」と語った。
一方、多度大社がある桑名市多度町で暮らす住民らは「迫力がなくなった」と口をそろえた。子どもの頃から神事を見てきた男性(75)は「すべての馬が坂を上りきり、張り合いがない」と振り返った。
神事はもともと、坂の頂上にある土壁を馬が乗り越えた回数で作物の豊凶を占ってきた。昨年5月の神事初日は一頭も成功した馬がおらず、男性は「全頭が上りきるのなら、吉凶を占う神事と言えるのだろうか」と疑問を呈した。
同町の別の男性(67)も「昨年までの神事はドキドキしていたが、今年は祭りの楽しみが薄れた。伝統が途絶えてしまったのでは」と率直に語った。
神事に反対する動物愛護団体のメンバーは「馬の利用を廃止せよ」などのプラカードを掲げる抗議活動を行った。同団体と地元関係者が一時もみ合いになりそうな一幕もあった。団体の女性は「改善されたことは理解しているが、坂はまだ急だ。動物を使った神事はやめるべきだ」と訴えた。
この日は約7万人(主催者発表)が訪れ、昨年から3万人減少した。神事は5日まで。