元国会議員秘書がNYで偶然見かけた光景、なぜかくぎ付けになった「花」…気が付けばシャクヤク農家に転身
栃木県足利市里矢場町に約4000平方メートルの敷地にシャクヤクが咲き誇る観光園「MAISON DE PEONY」(メゾン ド ピオニー)がオープンした。シャクヤクに魅せられて国会議員の地元秘書から転身し、新規就農した片岡和紘さん(38)が約4年かけて耕作放棄地を観光園に変えた。苦労のかいあって今春、シャクヤクは満開の花を咲かせている。(橋爪悦子)
来園者にシャクヤクの花について説明する片岡さん(右端)=栃木県足利市里矢場町で
片岡さんは県内選出の国会議員秘書を長年務めてきた。2018年、休日に訪れた米国のニューヨークで、赤いつぼみの花を肩に抱えてトラックから運び出す男性を偶然見つけた。何げない街中のワンシーンになぜかくぎ付けになり、帰国後に調べてみると花はシャクヤクだと分かった。
翌19年の春、咲いた花を見ようと、多忙な業務の合間を縫って、足利市から近い群馬県内の複数のシャクヤク園に赴いた。大きくて華やかな見た目に甘い香り。どんどんシャクヤクの魅力に引き込まれたと振り返る。
その中で出会った前橋市の生産者に「欲しいなら株を分けてあげるから足利でシャクヤク園をやってみては」と声をかけられ、「自分でもやってみたい」との思いが芽生えた。コロナ禍もあって20年秋に秘書を辞め、シャクヤク農家に転身する決意を固めた。
農家の経験が全くなかった片岡さんにとって開園までは苦難の連続だった。約1か月かけて足利市内で見つけた耕作放棄地を借り受けたが、雑草が生い茂り、抜いても抜いても生えてきた。さらに30センチほど穴を掘ると水がにじみ出てくるほど水はけが悪かった。なんとかシャクヤクを植え付けても根腐れして枯らしてしまうことも多かったという。知人や土地所有者から機材を借りて、排水ポンプを埋め込むなど見よう見まねで土地を整備した。
必要な水分量や日照時間など育て方も品種によって異なる。栃木県内にはシャクヤクを育てる農家がほとんどいないため、片岡さんは秋田県や山形県の農家の元へ出向いたり、シャクヤク生産農家の多い富山県などが公表している栽培マニュアルも参考にしたりして、育て方のコツを学んだ。
4年間の試行錯誤を経て今春オープンした園には、約40種2000株のシャクヤクが植えられ、現在は遅咲きの白や薄ピンクの花が辺り一面を彩っている。それぞれの品種の見頃にあわせて来園し、見た目の違いを観察する熱心なファンもいるという。
片岡さんは、足利市内で別の耕作放棄地を借り受けて、シャクヤクのハウス栽培にも挑戦しており、全国でも珍しいシャクヤク専業農家を目指している。
片岡さんは「苦労は多いが、自分が一目ぼれしたシャクヤクの美しさや香りをもっと多くの人に知ってもらいたい」と話している。
開園時間は午前10時~午後5時。入園料は500円(中学生以下無料)。一度入園するとシーズン中は無料で何度でも入場できる。今年の見頃は5月中旬頃までで、切り花や鉢植えも販売している。
◆シャクヤク =中国東北部などが原産地のボタン科の多年草。5~6月頃に開花し、赤、黄、ピンクなど香り高い様々な色の花を咲かせる。日本へは薬草として伝わり、長野県や富山県などで生産が盛ん。根は風邪のかかりはじめに効く「葛根湯」など多くの漢方薬に使用される。