個人事業主に新たな試練!?6月から始まる「定額減税」…たった1年で終わる複雑怪奇な制度で混乱必至
「『インボイス制度』開始後、初の確定申告が終わったばかりなのに…」
インボイス制度スタート後、初めての確定申告が終わったばかりだが、来月6月からは「定額減税」がはじまる。
国内の物価高騰などを受けて生まれた新しい制度で、給与からトータル4万円(所得税3万円、住民税1万円)が減税されるという内容だが、適用ルールや申請の仕方が複雑で、混乱は必至だという。
YouTubeチャンネルの「オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する」でおなじみのオタク会計士こと山田真哉氏も「ナゾの制度」と言う。
インボイス制度スタート後、初めての確定申告…「登録を取り消したい人の多さに驚きましたね」と山田氏(PHOTO:アフロ)
サラリーマンも対象…適用ルールや申請の仕方が複雑で、ミスに気づけるのは自分だけ!?
「定額減税は、計算もややこしくて面倒くさい上に、たった1年で終わるという、本当にナゾの制度です(苦笑)。会社員の方は今年の6月からはじまりますが、年金受給者の場合は6月(所得税の減税)と10月(住民税の減税)の2段階スタートになりますし、個人事業主の方の多くは来年の確定申告で行います。
また、一般的には毎月の給与から少しずつ減税されるのですが、減税額のトータルが4万円に満たない場合は給付金で支給される予定となっています。しかし、その給付金の詳細はまだ発表されていません。さらに、1年だけのイレギュラーな制度なので、自治体側の混乱やミスも予想できますが、それに気づけるのは本人だけでしょう。今のうちから勉強しておいたほうがいいと思います」
そう話すのは、オタク会計士YouTubeチャンネル以外に、芸能業界専門の会計事務所「芸能文化税理士法人」会長のほか、作家や政府の行政改革関係の構成員なども務める山田真哉氏だ。
インボイス制度スタート後、初となった今年の確定申告のほうがマシだと話す。
「インボイスもそれなりに大変でしたが、なんだかんだ言って今後も続いていく制度です。スタートしてすぐに解釈の変更等もあって少々荒れましたが、少しずつ整備されていって、いつか電子化されたら作業自体は楽になるんじゃないかという希望があります。
それに、コロナになって給付金制度が生まれたおかげで、この業界は毎年何かと忙しくて、今年は給付金がインボイス制度に変わっただけという感じです。なので、僕たちにとっては今年の定額減税のほうが、気が重いですね(苦笑)」
スタートまで1ヵ月を切っていながら、会計のプロもいまだ頭をひねることが多いという定額減税だが、今年の確定申告の現場は一体どうだったのだろうか?
インボイス制度開始後、初めての確定申告は…
「今年、うちの事務所で対応した確定申告数は、約250件。お客様のほとんどが売り上げ一千万円以上の個人事業主の方ということもあり、9割以上がインボイス制度に登録していました」
確定申告の現場に限ると、インボイス制度未登録者は例年通りで、インボイス制度登録者(法人含む)は適用する課税制度によって大変さが違ったという。
「消費税の申告には、本則課税・簡易課税・2割特例という3つの計算式があり、本則課税の場合は帳簿にひとつずつ細かい情報を入力しなければいけないので大変でした。でも、うちのお客様はほとんどが簡易課税か2割特例だったので、そこまで手間ではありませんでした。全体的に考えたら、追加された項目分の入力・確認作業が増えたので、時間にしたら1.5倍増くらいだと思います」
「去年の今頃はインボイス制度の説明をしたり、相談を受けたりする機会が多かったので、それがなかった分、今年はマシだったかもしれません(苦笑)」
「印象に残っているのは、クリエイターの方の理解のバラつきが激しくて、正しく適格請求書を発行できない人が多かった点です。インボイス制度に登録しているはずなのに登録番号が記入されていなかったり、税率が記入されていなかったり、反対に間違った税率を記入されていたり……。小さなミスがたくさんあって、法人のお客様からの質問も多かったですね」
混乱の理由は消費税の理解不足…来年度は今年の4倍の納税額になる!
他にも、今回の納税でインボイスの適用は10~12月の3ヵ月分だけということを知らない人も多かったと山田さん。
「納税後に『来年も、このくらいの額を納めるんですね』と言われたお客様もいました。『今年は3ヵ月分なので、来年は4倍になります』と伝えたところ、『だったら、インボイス制度の登録を取り消したい』という相談も来て(苦笑)。翌月から登録を取り消しする方法を発見したので、税理士仲間にも相談したりして、3月末にYouTubeにアップしたら、感謝のコメントをたくさんいただきました。登録を取り消したい人の多さに驚きましたね」
こういったことから、インボイス制度の理解の前に、消費税についての知識が乏しい人が多く、この点を改善しなければいけないことに気づいたという。
「当たり前のことですが、インボイス制度は、登録して適格請求書を発行するだけではありません。納税者になるので、消費税の知識も必要です。『税込経理』や『税抜経理』、『割戻し計算』に『積み上げ計算』など。あと、令和元年以降の消費税は10%と8%になりましたが、国と地方に分けて計算をするため、国の消費税は通常7.8%(残りは地方の2.2%)、軽減税率なら6.24%(残りは地方の1.76%)が正解になります」
そのため、e-Taxでは、国の消費税の申告欄には馴染みのある『軽減税率8%』ではなく、『軽減税率6.24%』としか書かれていないのも事実だ。
「残念ですが、消費税に詳しくない人への考慮はされていないのでしょう。それに、『充当』といって、還付金を納税に充てる方法もあるんですが、あまり知られていません。こういったことの説明も含めて、国は消費税について広く浸透させる必要があると思いました」
改めて考えたい「インボイス登録」の必要性の有無
最後に、個人事業主、企業、国に対する希望を聞いてみた。
「インボイス制度未登録の方は、雰囲気で登録しないでほしいですね。ひとり一人、状況が違うので、取引先から相談されたら考えるくらいでいいと思います。私のYouTubeチャンネル以外にも、本やブログでもインボイス制度や消費税について解説しているものは色々あるので、そういったものを見て勉強してから登録するしないを考えていただきたいです」
「本当なら、所得税、住民税、固定資産税などの仕組みも勉強したほうがいいでしょう。将来的に関係する人もいると思うので」
企業に対しては、あらゆるインボイスに関わる会社、特にオンライン販売をメインにしている企業への要望があるという。
「購入履歴の保存・確認期間の延長をお願いしたいです。電子帳簿改正によって、ある程度ダウンロードしなくて良くなったものの、大手のネットショッピング以外は1~2年で購入履歴が消えるところが多いので。せめて国の定めた7年間は保存してほしいです」
最後は国への要望だ。山田さんをはじめとする税理士だけでなく、国民からの希望ともいえるだろう。
「国には、消費税の知識の普及と少額特例の拡充をお願いしたいです。売り上げ1億円以下なら1万円未満はインボイス不要というのは継続してほしいですし、なんなら売り上げ1億円以下という条件をなくしてほしいです。インボイス不要というのも1万円未満ではなく3万円未満に。これが違うだけで、経理作業はかなり楽になりますし、そこまで税収も変わらないと思います」
副業やフリーランスが増えている昨今。国もこれらを応援しているのであれば、税法を伝える努力は必要だろう。また、納税は国民の義務であるため、私たちは税法を理解する必要もある。双方の歩み寄りが必要だ。
「自分に関係する税法や制度を調べるために、国税庁のホームページを見るという手もありますが、正直なところ、誰もがきちんと理解するには難しいと思います。それに、さまざまなケースがあるので、個別対応できる工夫もしてほしいです。そういった税法の教育や個別サポートが難しいのであれば、やはり少額特例の拡充や2割特例の継続などを検討してほしいですね」
取材・文:安倍川モチ子
WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。