今田美桜で5人目…!「花男」「花晴れ」シリーズから朝ドラ&大河主役が量産される納得の理由。
朝ドラ「あんぱん」のヒロインに
2025年度前期のNHK連続テレビ小説「あんぱん」のヒロイン女優が、今田美桜に決まった。
3365人が参加したオーディションを勝ち抜いたかたちだが、彼女は21年度前期の朝ドラ「おかえりモネ」でメインキャストのひとりを演じている。すでに民放連ドラでの主演経験もあり、そういった実績も評価されたのだろう。
今田美桜オフィシャルウェブサイトより
また「あんぱん」は漫画「アンパンマン」で知られるやなせたかしとその妻の生涯をテーマにしていて、やなせが妻をモデルに作ったのが人気キャラのドキンちゃんだという。史上有数の目が大きい女優である今田はドキンちゃんを彷彿とさせるので、そこも決め手になったようだ。
それはさておき、ここで思い出されるのが、彼女のブレイク作「花のち晴れ~花男 Next Season~」(TBS系)だ。
6年前にヒットしたこの作品で、彼女はヒロインの敵役から親友になる役を演じた。ヒロイン役の杉咲花は20年度後期の朝ドラ「おちょやん」で主役の座を射止めることに。これで朝ドラヒロイン女優をふたり生み出したわけである。
なお「花のち晴れ」は05年に大ヒットした「花より男子」(TBS系)の続編。ヒロインを演じた井上真央は、11年度前期の朝ドラ「おひさま」で主役を務め、15年にはNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の主人公を演じた。
また、ヒロインと結ばれる役を演じた松本潤は昨年の大河「どうする家康」の主役を務め、三角関係となる役を演じた小栗旬は一昨年の大河「鎌倉殿の13人」で主役を務めている。
「花男」と「花晴れ」の2作でじつに5人もの朝ドラ&大河の主役を輩出したわけだ。
6人目輩出の可能性も十分
特筆すべきは「花男」が当初、穴埋め企画として出発したこと。最近も「デイリー新潮」が報じていたが、本来「のだめカンタービレ」が放送される予定で、岡田准一と上野樹里による制作発表まで行われていた。
しかし、トラブルが生じて中止となり、苦肉の策として生まれたのが「のだめ」と同じく人気女性向けマンガだった「花男」のドラマ化だった。井上が当時所属していた事務所が「花男」の版権を持っていたことから、彼女を主役に話がまとまったという。
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この苦肉の策が大当たりしただけでなく、嵐が歌った主題歌「WISH」もヒット。翌々年には「花より男子2(リターンズ)」が作られ、嵐による主題歌「Love so sweet」ともども、前作を超えるヒットとなった。嵐はこれを機に、国民的グループへと飛躍する。
また、小栗が所属するトライストーンも、田中圭や綾野剛といった後続俳優をブレイクさせ、大手へと成長していった。芸能界の歴史を塗り替えたドラマといっても、大げさではない。
そして「花晴れ」ではヒロインの相手役を King & Prince の平野紫耀が務め、キンプリはこの作品の主題歌「シンデレラガール」でデビュー。昨年、分裂してやや失速したとはいえ、このシリーズを追い風にブレイクを果たした。
「花晴れ」のメインキャストからは中川大志や飯豊まりえといった、すでに朝ドラや大河で存在感を示した者も出ており、このあたりが今田に続く6人目となる可能性もある。
まだ伝説は継続中なのだ。
実は珍しい「学園モノかつ恋愛モノ」
ではなぜ「花男」「花晴れ」はこのような特別なシリーズとなったのか。それはドラマ史でもまれな、学園モノかつ恋愛モノの大ヒット作だからだろう。
もともと、学園モノは若手の登龍門になりやすい。古くは「3年B組金八先生」(TBS系)や「ごくせん」(日本テレビ系)といったシリーズが多くの有望株を輩出。現在の朝ドラ「ブギウギ」でヒロインを務める趣里は、11年に放送された「3年B組金八先生ファイナル」の生徒役でデビューしたし、前出の松本潤や小栗旬は、02年の「ごくせん」第1作で名を上げた。
その後も「野ブタ。をプロデュース」(日本テレビ系)でブレイクした堀北真希や「学校のカイダン」(日本テレビ系)で連ドラ初主演を飾った広瀬すずが朝ドラヒロイン女優に。また「学校のカイダン」でダブル主演状態だった神木隆之介も朝ドラの主役俳優となった。
さらに「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)には、川栄李奈、福原遥、今田美桜というのちの朝ドラヒロイン女優3人が生徒役で登場。同じスタッフが昨年手がけた「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ系)の生徒役たちもじつに豪華な顔ぶれだったので、そのうちそこから朝ドラや大河で主役をこなす人が出てくるのではないか。
特に朝ドラは06年度前期の「純情きらり」を境に、オーディションなしでの起用が増え、また、オーディションでもすでに実績十分な人が選ばれるようになった。十代から二十代初めの役者が経験を積めるのはなんといっても学園モノなので、そこからのちの朝ドラ主役が誕生するのは必然的なことでもあるのだ。
そんななか、わりとまだ無名だったのが、13年度前期の朝ドラ「あまちゃん」の能年玲奈(現・のん)だが、デビュー作はその3年前にヒットした映画「告白」の生徒役。その同級生でヒロイン的存在だった橋本愛は「あまちゃん」でサブヒロインのひとりを務めた。やはり、特に朝ドラにおいては、学園モノからのステップアップ組を使うのが安心なのだろう。
ただ、こうした学園モノと「花男」「花晴れ」が違うのは、同時に恋愛モノでもあるということだ。朝ドラはもとより、大河においても、恋愛は重要なテーマ。若くして恋愛モノでも結果を出せるのは、華や色気といった部分でも優れていることを意味する。
たとえば、現在の「ブギウギ」でヒロインの相手役に起用されたのは、水上恒司(元・岡田健史)だ。結核で夭折する年下の恋人を凛々しく儚く演じたが、その華や色気はデビュー作「中学聖日記」(TBS系)のときから際立っていた。
朝ドラヒロインをこなしてトップ女優となっていた有村架純を相手に、背伸びをした恋をする少年を演じ、鮮烈にブレイク。その後、事務所からの独立騒動で改名するといった紆余曲折がありながら、こうした大役を再び得られたのは、若くして恋愛モノで結果を出せるだけの華や色気をまた見込まれてのことだろう。
「花男」「花晴れ」の出身者にも同じことがいえる。それゆえ、このシリーズは5人もの朝ドラ&大河主役を輩出できたのである。
恋愛モノで結果を出すことが大事だが
とはいえ、こうした作品はめったに生まれない。まして、今後はもっと生まれにくくなる気もする。
昨年放送された恋愛群像劇「真夏のシンデレラ」(フジテレビ系)が成功しなかったように、若者の恋愛離れが指摘されるなか、恋愛モノの訴求力自体が弱まってきた印象もあるからだ。
そもそも「花男」は原作自体にパワーがあり、実写化すればかなりの興味を惹けるだけの人気もあった。これほどの恋愛マンガは最近出ていないし、小説なども含めたフィクション全般を見渡しても、恋愛モノの大ヒットはしばらく途絶えている印象だ。
それでも「君の膵臓をたべたい」や「かぐや様は告らせたい」といった映画で評価された浜辺美波や橋本環奈が朝ドラヒロインにたどりついていることを思うと、恋愛モノで結果を出すことが大事なことは間違いない。
そういえば、脇役のイメージが強かった伊藤沙莉が初めてヒロインらしさを発揮したのがドラマ「いいね!光源氏くん」(NHK総合)シリーズだった。時空とフィクションの壁を超え、現代にやってきた光源氏と恋におちるOLの役だ。
伊藤もまた、学園モノや恋愛モノで実績を重ね「ブギウギ」の次の朝ドラ「虎に翼」でいよいよヒロインの座に駆けのぼることに。「花男」「花晴れ」のような作品に巡り合えなくても、コツコツとやっていくことで道は開けるともいえる。
Instagram(@imada_mio)より
なお、今田美桜についてもヒロインのライバル役などのイメージが強く、その点では井上真央や杉咲花とはタイプが異なる。そのせいか、主演での代表作と呼べるものはまだない状況。
「あんぱん」に先駆けて、4月からは連ドラ「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ系)に主演するが、これは13年度後期の朝ドラ「ごちそうさん」でヒロインを務めた杏がその直後に主演し、ヒットさせたシリーズの新作だ。
朝ドラの前に、その資質を試されるような流れでもあり、プレッシャーもかかることだろう。これから主役も似合う女優へと飛躍していけるかどうか、注目だ。