今季のボールは飛ばない? プロ野球で本塁打大幅減 投手の能力向上を指摘する声も プロ野球通信
打球の行方を見つめるヤクルトの村上宗隆=3月30日、神宮球場(加藤圭祐撮影)
「投高打低」の傾向が続くプロ野球で今季、現場から「ボールが飛ばない」との声が相次いでいる。日本野球機構(NPB)や製造元のミズノ社は仕様の変更を否定するものの、1試合平均の本塁打数は昨季と比べて3割以上減少。投手の能力向上に加え、野球のデータ分析が進んで効果的な対策が講じられていることも、一因として指摘されている。
昨季より3割以上減
8日終了時点の12球団の本塁打総数は185本。1チームあたりの1試合平均は0・47本で、昨季全体の0・73本と比べて34・9%減となっている。これは「飛ばない統一球」が使用されていた2011年の0・54本、12年の0・51本をも下回る。投手の疲労が少なく、打者がボールに目が慣れていないシーズン序盤は例年、本塁打が出にくいとされるが、それを考慮しても少ない数値だ。
ボールが「飛ばない」と感じている選手は少なくない。ヤクルトの村上宗隆は「打球速度と飛距離がちょっと比例していないところがある」と昨季までとの違いを口にする。西武の佐藤龍世も「昨季までは『バチン』と硬いボールを硬いバットで打っていた感じだったが、(今季は)少しボールが柔らかい感覚がある」と打感の変化を証言。ヤクルトの大松尚逸打撃コーチは「160キロ台後半の打球速度と22、23度の打球角度で(昨季は)余裕で本塁打だったのが、(今季は)取られる打球がいくつもあった」と、具体的な数値を挙げて解説した。
外野を守る選手も、同様の変化を感じ取っている。DeNAの桑原将志は「今までなら『スタンドに行くかな』と思っていた打球がフェンス直撃で終わっている。(打球の伸びが)2、3メートルは変わっているのではないか」と指摘した。
NPB「ボールは適格」
とはいえ、ボールの反発係数などの仕様が昨季と変わったわけではない。NPB広報は「適格と認められたボールを使用している」と説明する。
セ、パ両リーグのアグリーメント(申し合わせ事項)では、統一球の反発係数は「0・4134」を目標値と定めている。NPBは納入前に6ダース分を無作為に抽出し、反発係数を測定。平均反発係数を算出し12球団に報告している。今季の統一球の検査結果は日本プロ野球選手会も確認しており、「目標値に近い数値」(森忠仁事務局長)だったという。
ではなぜ、本塁打が少ないのか。一因として、投手のレベルアップを指摘する声もある。「(ボールが飛ばないと)全然思わへんけどな。投手の球の力があるんちゃうか」と話すのは、阪神の岡田彰布監督。11、12年の「飛ばない統一球」でもプレー経験がある西武の炭谷銀仁朗も「あの時は(ボールの影響で)打者を差し込めている感覚があった。今は飛ばない感じはしない。強い直球を投げる投手が増え、(打者が)力負けをしている」と、捕手目線で分析する。
一過性との見方も
近年、野球界ではデータ解析システム「トラックマン」の導入などにより、ボールの回転数や打球速度などの数値化が進んでいる。その結果、打球速度が158キロ以上で角度が30度前後のときに8割以上が安打や本塁打となることがわかってきた。するとボールの軌道の下からバットを入れ、打球に角度をつけるスイングを志向する打者が増加。これまで「安全」とされていた低めの直球が長打となる場面が増えていた。
ロッテの金子誠戦略コーチによると、対策として、ここ数年、高めに速球を投げる投手が増え、こうしたスイングでは打者が長打を打ちにくくなっているという。金子コーチは「投手と打者は昔から『追いかけっこ』。進化した投手に対して、打者もアジャストしていくと思う」と、本塁打減少は一過性のものであるとの見方を示している。(運動部 プロ野球取材班)