今だから語れるスケボーアイドルの「ヤンチャ」な過去、見つけた道は「ストリート」…清司麗菜の#skatelife
卒業コンサートの練習中の様子(Flora提供)
NGT48の清司麗菜さんはアイドルでありながら、スケートボードに打ち込んでいます。4月にはグループのエース、本間日陽さんが卒業しました。彼女の卒業と同時に、自分の仕事にも少しずつ変化が現れてきました。SNSからあふれ出る「ストリート感」。その理由の一端を語ります。「清司麗菜の#SkateLife~continuity180~」の第14回です。
■「田舎のヤンチャ者」
きっと、地元のみんなは私がアイドルをしていると聞いた時、かなり驚いたと思う。
NGT48に入る前、それなりに私はヤンチャだった(と思う)。中学生時代、夏休みに髪の毛を染めていたこともあったし、バイトAKBの頃からレッスンでの勝負服だったヒョウ柄のダンスパンツやシューズは、NGT48に加入してからも愛用していた。
当時ダンスが苦手だった私は、見た目だけはカッコつけたかった。「田舎のヤンチャ者感」はどうしてもぬぐえず、「第一印象は怖かった」というのが、古株のメンバーの間でのもっぱらの評判だ。
ちなみにお父さんの髪色は若い頃、緑色(!)だったらしい。ファッションの専門学校に通っていたお父さんの洋服はストリートファッションも多く、お父さんのおさがりのトレーナーが今となっては私の私服となっている。スケボーを始めてから知った話なのだけれど、スケボーにも乗っていたんだって! 人に歴史あり、この親にしてこの子あり、なのかもしれない。
そんな私もつい最近、誕生日を迎えて23歳になった。NGT48に加入してから9年目。
4月は私と同じ1期生の本間日陽の卒業コンサートがあった。チームのエースは、加入時から「王道アイドル」。アイドルなら、誰もが一度はあこがれる姿だった。笑顔を絶やさず、正統派な女の子。ずいぶん長い時間、活動をともにしてきた。個性豊かで、バラエティーあふれるメンバーがそろうNGT48の中で、最後の最後まで、彼女は自分のスタイルを貫き、グループを旅立った。
■スケーターとして声をかけられて
春のコンサートでレッスン漬けの日々が終わって、また日常が戻ってきた。3月にはたくさんスケボーに乗れたけれど、やっぱりアイドルの仕事が忙しいとき、パークから少し足が遠のく。笑顔で送り出せたと思うけれど、日陽とのお別れは私の心に少なくない不安や寂しさを残していった。
約1か月ぶりにパークへ行く。この時期の新潟の天気は悪い。だけど、私の心はボードに乗るごとに少しずつ軽くなっていった。ウィールが転がり、トラックに振動を伝え、デッキをふるわせて、私の体が心地よく揺れる。レールトリック、フロントサイド180、バンクを使ったトリック――。3月は決まらなかったトリックが、不思議なくらい決まっていく。時間をおいたのが良かったのかな?
突然、「スケボーうまいっすね」。同じパークにいた別のスケーターに話しかけられた。「ありがとうございます」と返すと、「インスタ見ています。レイナさんですよね? がんばってください!」と言われた。NGT48のファンの皆さんには「れいにゃー」と呼ばれているから、たぶん見ている“インスタ”はスケーターアカウントの方だったんだと思う。
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最近、ストリートファッションブランドのインスタグラムの仕事もいただいた。X-girlという有名ブランドがスケボーを中心にしたアカウントを作ったので、そこにアップする動画の撮影をしてもらった。
スケートボードと、動画の関係は深い。元々、スケーターの一番の「華」は大会で優勝することじゃなかった。フィルマーと呼ばれるカメラマンが、スケーターのトリックを撮影して、ビデオにして販売する文化があった。だから、カッコイイ映像を残すことは、スケーターカルチャーの中で重要視される。
オリンピックなどの世界規模の大会になると、必ずといっていいほどオフィシャルのフィルマーがいる。びっくりするのは撮影方法だ。なんとスケーターと併走して撮影する。カメラを回しながら、スケボーに乗ってライダーを撮影する。どのトリックをどうやって撮影するのがカッコイイか、スケボーの知識と撮影技術が求められる。
私もいつかは撮影してほしい、と思っていたけれど……。まさか、こんな形で実現するとは思わなかった。他の投稿と比べるとレベルは……。だけど! スケボーに関わるスタンスは人それぞれだ。私は私のペースでスケボーに乗ればいい。スケーターとして見られることもずいぶん増えてきた。
■与えられたものを伝えていく
元々、ヤンチャ気味だった私。今だから白状するけれど、アイドルになりたかったのは「目立ちたかった」からだと思う。自分はかわいいと思っていたし、テレビの歌番組に登場するAKB48に憧れた。「有名になれる」と思ったから、アイドルになった。でも、待っていた現実は厳しいものだった。
研究生スタートで、NGT48の選抜に漏れ続け、総選挙ではランキング圏外。当時、NGT48には勢いがあり、気づけばほとんどの同期たちがランクインをしていた。今だから言えるけど、その頃、NGT48の歌番組やMVはちゃんと見られたことがなかった。現実逃避をしたかったのかもしれない。
日陽は、日陽なりに悩むことや背負うものがたくさんあったと思う。それでもアイドルの王道を、歩き続けた。そし最後までエースとして、チームを引っ張ってくれた。
普通に生きていたら交わらないであろう人生が交差した9年間。私たちには、うれしいことも悲しいことも、つらかったことも、楽しかったこともあった。彼女が大きなコンサートホールでアイドルとしての最後を迎えたその数日後、私はスケーターとしてファンに声をかけられ、動画を撮影した。華やかな道を歩いた日陽と、ストリートを歩く私。同じグループにいるのに、不思議だよね。
私は人に物事を伝えるのがあまりうまくない。日陽が自分の体験を交えながら、後輩にダンスや歌、ステージングの指導をしていたのを近くで見ていた。だから、卒業コンサートに向けて、初舞台となる4期生にいろいろアドバイスをしてみたけど、ただただ説教っぽくなるだけだった。でも、彼女たちを思う気持ちは誰にも負けていない。「一番下」を経験してきた私だから伝えられるものがある。結局、私は背中で語るしかない。
今度、スケートボードのHow To動画を撮ってみようと思う。そろそろ、私にできるトリックを分かりやすく伝えられたらって思っている。大会で優勝したり、スケーターとして雑誌の表紙を飾ったりすることのない、どこにでもいるスケーターの自分だからこそ、分かりやすく解説できたりするんじゃないかなって。だって、世界中にいるスケーターの大半が私と同じような人ばっかりだしね。
私がインスタでいろんな人のトリックを見て学んだように、私もそんな一人になっていきたい。アイドルもスケーターも、与えられたものを、誰かに伝えていく。華々しくない道を歩く自分の姿を見せることも、きっと大切なことかなって思う。Continuation is power。この春、私はそんな気分だ。
プロフィル
清司麗菜(せいじ・れいな)
NGT48の1期生。埼玉県出身。14歳から「バイトAKB」としてアイドルキャリアをスタートさせ、2016年にNGT48に加入。趣味はスケボーのほか、歌うこと、筋トレ。Instagramは「@reinaseiji」、X(旧Twitter)は「@official_seiji」。