中国3隻目の空母「福建」、初の試験航海で出港…20日発足の台湾新政権をけん制か
1日、初の試験航海に臨む中国の空母「福建」=新華社AP
【北京=東慶一郎】中国国営新華社通信によると、中国軍3隻目の空母「福建」は1日、初の試験航海を行うため、上海の造船所を出港した。中国海事局は東シナ海の一部海域を9日まで航行禁止としており、この海域で空母の動力や電力システムを検査しているとみられる。
福建は、台湾有事になれば台湾東側の海域に展開し、米軍の接近を阻止しつつ、台湾軍の基地を攻撃する役割を担うとみられている。この時期に試験航海を始めたのは、20日に発足する台湾・民進党の頼清徳(ライチンドォー)政権をけん制する狙いもありそうだ。
福建は、中国軍の空母では「遼寧」(2012年9月就役)、「山東」(19年12月就役)に次ぐ3隻目となる。満載排水量は約8万トンに及び、米軍空母に迫る規模を持つ。最大の特徴は、リニアモーターカーの原理で艦載機を射出する電磁式カタパルトを初めて採用した点で、射出する機体に合わせて発射速度を調整できる。遼寧と山東ではできなかった早期警戒機の艦載が可能とされる。
早期警戒機が空母で運用できると、海上から広範囲の対空目標を探知できるため、作戦能力が向上する。台湾有事で米軍の増援部隊を阻止する中国軍の戦略「接近阻止・領域拒否(A2AD)」にも寄与する。
「空母3隻体制」になる利点も大きい。中国の軍事専門家は1日、中央テレビに出演し、「1隻が補修、1隻が訓練をしていても、常に1隻は重要な海域に配置できる」と強調した。
試験航海は通常、10回程度行われる。中国英字紙チャイナ・デイリー(電子版)によると、遼寧は10回、山東は9回だった。その後、問題がなければ就役するが、遼寧は最初の試験航海から1年1か月かかり、山東は1年7か月を要した。福建は、「新技術が多いため、試験航海に要する期間は長くなる」(中国の軍事専門家)とみられている。
福建については、ここまで必ずしも順調に進んでいないとの見方もある。福建が進水したのは22年6月で、試験航海の開始まで2年弱かかった。関係者によると、長期間、甲板上にある3本のカタパルトにはカバーが掛かっていた。中国海軍に詳しい笹川平和財団の小原凡司・上席フェローは「通常より時間がかかっており、電磁式カタパルトに問題が生じていた可能性が高い。艦載機の運用を含めた戦力化には時間がかかるだろう」と推測する。
膨大な電力を消費する電磁式カタパルトは現在、米軍の原子力空母「ジェラルド・フォード」だけが実用化に成功している。通常動力を採用する福建が必要な電力をスムーズに供給できるのか疑問視する声も多い。