中国国内には人民の不満のマグマが溜まりまくり!習近平国家主席がここまで「台湾統一」にこだわる「納得の理由」
政治家を有権者の多数決で決める。言うまでもなく、これが選挙の仕組みだ。今年は世界各国で大型選挙が予定されている。民意が選んだトップが、世界を大混乱に陥れる。激動の一年が幕を開けた。
日本も戦争当事国に
「’24年は世界の選挙イヤーで、65ヵ国以上で大型選挙が行われる。その中で我々は、第1戦に勝利したのだ」
「今回は世界が注目する総統選だった。民主主義と権威主義の間で、台湾が民主主義の側を選択することを世界に見せつけたのだ。このことこそが、今回の選挙の世界的な意義だったと言える」
1月13日、台湾総統選で勝利を収めた、民進党の頼清徳副総統(64歳)は、選挙後の会見で高らかにこう宣言した。
本誌記者は、会見後に民進党が台北市内の広場で行った祝勝会も取材した。紙吹雪が舞い、司会者が絶叫して聴衆を煽っていたが、そこにあったのは「作られた感動」だけだった。4年前、蔡英文総統(67歳)が再選されたときの熱狂はなく、観衆も取材記者もどこか冷めた雰囲気だったのが印象的だった。
それもそのはず。中国に反発し、親米的な姿勢を鮮明にする民進党政権が3期目に突入することで、台湾と中国の緊張関係がより強まっていくことは明らかだ。
中国は迅速に動き出した。頼副総統の当選からわずか2日後。南太平洋の島国、ナウルが台湾との国交の断絶を通告し、中国と国交を結んだと発表した。
激烈な中国の監視体制
元産経新聞台北支局長で、ジャーナリストの吉村剛史氏がこう話す。
「ナウルは頼氏の当選直後に祝電を送っていたので、明らかに不自然です。台湾は’16年に蔡政権が発足した際、22ヵ国と正式な外交関係を結んでいましたが、中国が『台湾は自国の一部』だと主張して切り崩しを行い、12ヵ国にまで減少しました。今回も中国が経済援助と引き換えに、裏で手を回したと考えられます。
中国はすでに台湾からの一部輸入品の関税優遇を停止したり、またサイバー攻撃を仕掛けたりして、経済的、物理的な威圧を強めています」
中国は今も昔も「台湾統一」に強いこだわりを見せ、習近平国家主席(70歳)は「武力侵攻」の選択肢を手放していない。その背景には、中国人民の「体制への不満」があるという。
外交ジャーナリストの手嶋龍一氏が解説する。
「中国当局の人民への監視体制は、想像を絶するほど厳しくなっています。習近平政権が敷く抑圧の仕組みや治安機関は極めて強力です。そのため、いますぐに民衆の反乱が起こるとは考えにくい。
しかし、抑圧が強力であるほど、権力への反動が大きくなるものです。いまの中国は不動産市況が劣悪で、最近公表が再開された若者の失業率も高い水準のままです。
国内に不満のマグマが溜まっているため、当局は人々の愛国心を刺激して民衆の不満を外に逸らそうとする。民進党の頼次期政権を『独立派』と断じて標的にし、台湾有事を煽る誘惑にかられる可能性がある。いまの習近平体制が生き残るために、武力行使に突き進む心配があります」
その後、いったいどうなるのか。後編記事「台湾がウクライナになり、日本の自衛隊が巻き込まれる「恐ろしすぎるシナリオ」へ続く
「週刊現代」2024年1月27日号より