ヘトヘトになるほどの運動は必要ない! 腎臓病悪化を防ぐ食事と運動のポイント 腎臓病 治療大全 第4回
日本の大人の8人に1人は、慢性腎臓病をかかえていると推測されています。腎臓は自分の存在を声高に主張することのない控えめな臓器なので、腎臓の働きが低下しても、ほとんどの人は気づきません。腎臓の働きが2割程度になってしまっても、「なんの自覚症状もない」という人もいます。
しかし、尿や血液には「腎臓が弱っているサイン」が現れています。症状がないから大丈夫!ではなく、症状がない状態でサインを見つけ、早めに対策を始めることが肝心です。そのためのヒントをQ&A方式でリストアップしました。今回は腎臓を長持ちさせるための、食事や運動といった生活習慣についてご紹介します(腎臓病 治療大全 第4回)
前回記事:
糖尿病や高血圧、尿路結石はキケン! 腎機能を低下させる病気にご用心
Q1.腎臓病を改善するために、生活習慣で大切なことは?
慢性腎臓病の発症・進行には生活習慣病が深く関係しています。そのため、「よい習慣に切り替えていくことで改善できる病気」ともいえます。ただ、頭では理解していても、実際行動に移し、続けるのは簡単なことではありません。
生活習慣のなかでも重要になるのが、食事や運動、タバコです。食べすぎや運動不足、肥満、喫煙などが続くと、インスリンの効きぐあいが悪くなっていきます(インスリン抵抗性)。インスリンは血糖を下げるために分泌されるホルモン。慢性腎臓病や糖尿病だけでなく、ほかの生活習慣病でもインスリン抵抗性はみられるため、生活習慣の改善には、悪しき生活習慣を断ち切ることが重要です。
自分の生活のどこに問題があるかを把握し、その悪循環をもとから断ちましょう。この先の人生をどのように送りたいのか、しっかり考え、強い決意で生活改善に取り組んでいきましょう。
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【改善すべきポイントをおさえる】
生活習慣のなかでも重要になるのが、食事や運動です。まずは、自分の生活のどこに、どんな問題があるのかをしっかり自覚しておきましょう。
●運動
□体を動かすことは苦手
□近い距離でも乗りものを使う
□忙しくて運動する暇がない
ちょっとした心がけで運動量は増やせます。無理のない範囲でできることから始めましょう。
●タバコ
□喫煙している
□禁煙を試みたことはあるが失敗した
喫煙は腎機能を低下させます。禁煙がむずかしければ「禁煙外来」の利用も検討しましょう。
●食事
□毎日、ついつい食べすぎてしまう
□濃い味つけのものが好き
□甘いもの、お菓子をよく食べる
問題点を自覚し、少しずつでも改善していきましょう。
●肥満
□BMI が25 以上 *BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
□おなかまわりに脂肪がたっぷり
食事、運動のバランスの見直しを。
Q2.腎臓病の食事療法のポイントは?
慢性腎臓病の食事療法は、原因や腎臓の働きぐあいによって内容が異なります。一人ひとりの状態に合わせて食事内容を見直していきます。腎機能を低下させている要因が明らかな場合、それぞれに注意したいポイントがあります。
● 高血圧…降圧薬をのんでいても、減塩・減量は必須。
● 糖尿病…エネルギー量、甘いもののとり方などにも注意して、血糖値を厳格にコントロールしていく。
● 脂質異常症…動物性脂肪のとりすぎ、食生活のかたよりに注意。
● 高尿酸血症(痛風)…尿酸のもととなるプリン体を多く含む動物の内臓、魚の干物などを避ける。飲酒量も控える。
● 腎炎・ネフローゼ症候群…むくみが強いときは水分制限も必要になる。
また、慢性腎臓病の進行度によっても、食事内容を見直していきましょう。
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【進行度にあった食事療法のポイント】
腎臓の働きが弱まるほど、制限が必要なことも増えていきます。
慢性腎臓病の進行度G1、G2
●食塩摂取量を1日6g未満に
●適正なエネルギー量に調整
慢性腎臓病の進行度G3
●たんぱく質摂取量を見直し、リン摂取量を制限
●高カリウム血症があればカリウムを制限
●減塩、エネルギー量調整は今までどおり
慢性腎臓病の進行度G4
●たんぱく質摂取量をより厳格に
●必要に応じてカリウム制限の追加・継続
●減塩、エネルギー量調整は今までどおり
慢性腎臓病の進行度G5
● 透析治療開始後の食事療法を適用します。
Q3.腎臓病のたんぱく質制限について教えてください。
腎臓の働きが弱まり、濾過機能が低下してきたら、食事内容をさらに見直します。ゴミとなるようなものは、なるべく体内に持ち込まないようにします。
まず見直したいのが、たんぱく質です。たんぱく質は生きていくうえで欠かせない大切な栄養素ですが、ゴミとなる老廃物もたくさん生んでしまい、腎臓の濾過機能に負担をかけます。
たんぱく質量の見直しは、慢性腎臓病(CKD)の進行度がG3くらいまで進むと必要になってきます。
ただし、むやみに減らすと筋肉がこわされてしまうこともあります。加齢とともに筋肉が減って歩くことがままならない、ということは避けたいもの。主治医と相談しながら適量を心がけましょう。
また、腎機能の低下が進んできたら、カリウムやリンを適量にしていきましょう。
【たんぱく質は過不足なくとる】
たんぱく質は多すぎず、少なすぎない“ 適量”をとることが大切です。
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腎機能の程度で1日のたんぱく質摂取量の目標値は変わる
ステージG3aで体重1kgあたり0.8~1.0g、ステージG4以降で0.6~0.8gを目標にします。
●少なすぎると体をつくる材料不足に
たんぱく質は筋肉や血管、血液など、体の組織をつくる大切な材料。摂取量を極端に減らすと組織が弱くなる。
●多すぎれば老廃物がそれだけ増える
たんぱく質が分解されてできる尿素、クレアチニン、尿酸などは、体にとっては不要な老廃物。たんぱく質をたくさんとれば、老廃物もそれだけ増える。
●腎臓に負担がかかる
たくさんの老廃物を取り除かなければならなくなり、フィルターの役目を果たす糸球体の膜などが故障しやすくなる。
●老廃物がたまって尿毒症に
腎障害が進んで濾過機能が働かなくなると、体中に老廃物がたまり、ひどくなれば尿毒症も。
Q4.腎臓病になったら、やせないといけないですか?
肥満の人はたんぱく尿が出やすく、腎機能の低下をまねきやすいことが知られています。それだけでも腎機能を低下させるリスクのひとつですが、さらに高血圧や糖尿病などがあると、腎臓を傷める生活習慣病の温床にもなってしまいます。食事からとるエネルギーを減らしたり、たくさん動いて消費するエネルギーを増やしたりすることで、エネルギーの収支バランスを改善していきましょう。
一方で、必要以上に食事量を減らすことには弊害もあります。とくに、もともとやせぎみの人は、むやみに食べる量を減らさないようにしてください。筋肉量が減りすぎると、体力も低下してしまうからです。
統計的にもっとも病気を発症しにくいのは、身長と体重から割り出すBMIが22の場合とされています。BMIが22となる体重が標準体重です。実際の体重とくらべてみましょう。
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BMI =体重(kg) ÷身長(m)÷身長(m)
標準体重=身長(m)×身長(m)×22
●現状は?
実際の体重はどれくらいでしょうか。BMI 25 以上なら明らかな肥満、逆に18.5 未満なら低体重(やせ)と判断されます。
●太りすぎ? やせすぎ?
標準体重と、実際の体重との差を解消することを目標に、エネルギー量を調整していきます。
Q5.腎臓病の運動療法の目安量を教えてください
同じような運動でも、楽にこなせる人もいればきつく感じる人もいます。それは一人ひとりの運動能力が異なるからです。どのくらいの運動が自分にとって「適度」なのかは、自分の感覚で判断していくとよいでしょう。
体を動かすことで爽快感が味わえれば、続ける意欲にもつながります。それぞれが、さほど無理なくできる運動を続けることが大切です。
長く続けるうちに、同じ運動が以前より楽々こなせるようになったと感じれば、運動能力が上がってきた証拠です。新しいことに挑戦してみるのもいいでしょう。
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●ヘトヘトになるほどの運動は必要ない
体力の維持をはかるための運動は、無理なくできる程度で十分です。少し強めの運動をしたあとは、たんぱく尿が増えたり、血清クレアチニンの数値が上がったりすることがありますが、一時的なものであることが大半です。
●週3回程度、定期的に続ける
運動療法の効果を得るには、1日30分程度の運動を定期的に、長い期間、続けていくことが大切です。毎日でなくてもかまいません。週に3回程度は意識的に体を動かしていきましょう。