ハンターの6割が60歳以上、クマやシカの被害は急増…次世代育成に課題
(写真:読売新聞)
クマによる人身被害やシカの食害が深刻化する中で、捕獲にあたるハンターの高齢化が進んでいる。環境省はクマを計画的に捕獲し、頭数を管理する「指定管理鳥獣」に追加したが、現場で対応するハンターの6割が60歳以上だ。市町村職員による「公務員ハンター」の重要性も増す。(畑武尊)
■体力の衰え痛感
「昨日のクマがまた鶏小屋にいる。出動してほしい」
昨年10月24日朝、秋田県北秋田市の男性(77)は、市から駆除の依頼を受け、猟銃を手に軽トラックに乗り込んだ。自宅から10分で現場に着くと、体長約1メートルのツキノワグマが鶏を食い荒らしていた。約10メートルの地点で銃を撃ち、駆除した。
市内では同月、市街地に出没したクマが次々に住民を襲い、地元猟友会に出動要請が相次いだ。男性は「若かった30年前と比べて、人が住む場所に現れるクマが激増した」と語る。
秋田県内の山間部で生まれ育ち、約50年前から猟をしてきた。集落の男性は大半が狩猟免許を持っており、自然とハンターに。会社員の傍ら猟期の冬には山中でヤマドリやウサギを追う生活を続けた。しかし、今年2月の猟では息が上がり、体力の衰えを痛感したという。
北秋田市でクマなどの捕獲にあたる「鳥獣被害対策実施隊」120人のうち78人が60歳以上だ。狩猟免許は3年に1度の更新が必要で、男性は78回目の誕生日となる8月、その時期を迎える。「更新せずにハンターをやめるか悩んでいる」と打ち明けた。
■高齢化、全国的な課題
農作物に被害をもたらす動物の捕獲には、ハンターの存在が欠かせない。高齢化は全国的な課題だ。
環境省によると、最新の統計がある2019年度、21万5417人に狩猟免許が発行されていた。うち60歳代が5万8433人、70歳代は5万6758人で、80歳以上も1万人を超える。1980年度にはわずか9%だった60歳以上の割合は、59%に上る。
環境省は今年4月、ヒグマとツキノワグマを指定管理鳥獣に追加。シカやイノシシと同様に、計画的に捕獲する対象にした。管理計画に応じて国が自治体に交付金を出し、対応を促す仕組みだ。
昨年度、全国最多の70人が人身被害を受けた秋田県の担当者は「ハンターの多くが高齢となる中で、交付金は次世代の育成や技術の継承に充てたい」と話した。
■「公務員ハンター」
クマの駆除は、市町村が地域の猟友会など民間ハンターに委ねる場合が多い。自治体職員が捕獲にあたるなど専門家として対応するケースもある。
北海道に生息するヒグマは、本州などのツキノワグマより体が大きく、より慎重な対応が必要となる。道内各地で出没が報告されているが、頻繁に姿を見せる占冠(しむかっぷ)村は17年度から「公務員ハンター」1人を置いた。浦田剛さん(46)で、昨年10月には通報を受けて猟銃でヒグマを捕獲した。「自治体が責任を持つとスムーズに対応できる」と話す。
シカの食害に悩んでいた長野県小諸市は、11年度に「鳥獣専門員」を設けた。シカの捕獲を猟友会から行政主体に切り替え、10年度の44頭から23年度の180頭に増えた。同市の担当者は「ハンターの高齢化が進む中でも、うまくシカを管理できている」と語る。
梶光一・東京農工大名誉教授(野生動物管理学)の話「獣による被害が大きくなったのに、猟友会など民間のボランティアのハンターに頼る現状は限界に近づいている。自治体がハンターを養成したり、公務員ハンターを増やしたりする取り組みが求められる」
■保護と捕獲両立が重要
環境省によると、北海道に生息するヒグマの推定個体数は2020年度に1万1700頭で、30年前に比べ2倍以上に増加した。本州・四国に分布するツキノワグマは、読売新聞が各都府県に取材したところ、4万4000頭が生息していると推定される。
23年度のクマによる人身被害は過去最多の219人(このうち6人死亡)で、許可された捕獲も最多の9319頭に上った。環境省の専門家検討会が今年2月にまとめたクマ被害を巡る対策方針は、保護の重要性を強調したうえで、捕獲によってクマが減りすぎないように個体数を継続的に把握することも求めた。