トヨタはテスラを目指さなくて本当によかった…テスラが「成長なき成長企業」に堕ちてしまった根本原因

トヨタはテスラを目指さなくて本当によかった…テスラが「成長なき成長企業」に堕ちてしまった根本原因

「トヨタはなぜテスラになれないのか」と語られていたが…(※写真はイメージです)

電気自動車(EV)大手・米テスラの株価が大きく下がっている。ジャーナリストの岩田太郎さんは「テスラの販売台数は前年割れし、利益率でもトヨタを下回り、『成長なき成長企業』となっている。このままだと時価総額でもトヨタに再逆転される可能性がある」という――。

「トヨタはなぜテスラになれないのか」と言われていた

米EV業界の雄であるテスラの時価総額は、世界的にヒートアップした電気自動車(EV)ブームに乗り、2020年7月に日本のトヨタ自動車を抜いて、自動車メーカーとしては世界一となった。

2021年11月には、すべての日本メーカーの時価総額をはるかに上回る、1兆2000億ドル超(約185兆円)を達成している。

一方、この時のトヨタの時価総額は2482億ドル(約38兆円)。このため日本では、「トヨタはなぜテスラになれないのか」という言説が広く語られるようになった。

ところが、今年に入ってEVブームが世界的に急失速する中、業績不調のテスラの時価総額は4月19日時点で4600億ドル(約71兆円)まで暴落。

一方、ハイブリッド車が絶好調のトヨタは3800億ドル(約59兆円)近くまで巻き返しており、再び大逆転劇が起こるのではないかと予想されている。

イーロン・マスクと豊田章男氏は「意気投合」した過去も

浅からぬ因縁を持ち、よく比較対象になる両社だが、その経営者もまた比較対象となることがある。

なぜ、一度は大勝しているように見えたテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はトヨタの豊田章男会長に「完勝」できないのか。

主にマスク氏と豊田氏の経営哲学の違いに注目し、時価総額に加えて販売台数、営業利益率、売上成長率などのデータと突き合わせながら、「イーロンが章男氏にかなわない理由」を考察する。

実は、テスラのマスクCEOはトヨタの豊田章男社長(当時)と2010年に意気投合し、弱小スタートアップに過ぎなかったテスラに対してトヨタが5000万ドル(約77億円)を出資することで「信用力」を提供している。

テスラの工場は元はトヨタの工場

さらに、閉鎖予定であったトヨタとゼネラルモータース(GM)のカリフォルニア州合弁工場を4200万ドル(約65億円)という破格の安値で譲渡した。

加えて、トヨタはテスラから数億ドル分もの排出権クレジットを購入し、カリフォルニア州などの厳しい州の規制に対応している。

このように、ある意味においてテスラはトヨタのおかげで大きくなれたといっても過言ではない。

この「弟子」の時価総額は当初、「師匠」の足元にも及ばなかった。

しかし、2018年2月に、「ハイテク株の女王」と呼ばれる名物投資家、キャシー・ウッド氏が、当時300ドル近辺であったテスラ株が4000ドルにまで達すると予言する。

当時、資金繰りや生産遅延の問題を多く抱えたテスラや、その総帥であるマスク氏を信じる人はあまりおらず、ウッド氏はウォール街の笑いものになった。

投機筋を中心にテスラ株に買いが殺到

ちょうどこの頃、マスク氏はテスラの時価総額がその先10年間に6500億ドル(約99兆円)を超えた場合に、その1割に近いおよそ560億ドル(約8兆4200億円)を、2020万株のストックオプションとして受け取れるというパッケージを取締役会と株主に提案し、承認されている。

果たして、翌2019年に中国の上海工場が稼働し、米国内の生産も安定化して軌道に乗ると、投機筋を中心にテスラ株に買いが殺到。株価はあっという間に急騰し、2021年1月にはウッド氏の予言通り4000ドルを突破してしまった。

そして、2021年1月には民主党のバイデン大統領が就任し、米国のEVシフトにより地球温暖化ガスの排出量ゼロを目指す規制を掲げる。

すると、米ニューヨーク・タイムズ紙が3月9日付の解説記事において、「栄華を誇る日本の自動車産業は今や取り残される危機に瀕している」と論じた。もちろん「現時点ではハイブリッド車が現実的な解」と主張するトヨタを念頭に置いたものだ。

同年7月25日付の記事に「トヨタはクリーンカーをリードしてきたが、今やクリーンカーを遅らせようとしていると批判されている」という見出しが付けられた。

テスラ株は「バイデン銘柄」

さらに同年8月6日付の記事では、「バイデン政権は、2030年の米国内自動車販売の半分をEVにするという目標を打ち出した。この大統領令は米国内で販売されるEVの3分の2を製造する米テスラにとりよい知らせだが、日本のトヨタにとっては悪いニュースだ。いまだに内燃機関車を販売する(トヨタのような)企業はジリ貧になろう」と予想している。

こうした米メディアの論調を念頭に、米調査企業ファクトセット・リサーチが追跡した、「テスラの時価総額がトヨタの何倍で推移したか」を示したグラフを見ると、2021年8月にEV大統領令が発布され、それに乗る形でレンタカー大手の米ハーツが10万台のテスラ車を42億ドル(約6554億円)で購入すると発表した2021年11月、そしてバイデン大統領の経済政策の目玉で、EV普及に向けた補助金支出が主眼のインフレ抑制法(IRA)が成立した2022年8月の後に、一時5倍近くに達している。

この時期のトヨタ株の上昇は限定的であった一方、テスラ株は大化けしていた。つまりテスラは、環境規制やEV購入補助金への期待で急騰した「バイデン銘柄」であったことがわかる。政治と商売は切り離せないのだ。

テスラの販売台数は前年同期を大きく下回った

ところが、テスラの時価総額は2021年から2022年にかけての「トヨタの5倍近く」という水準から、今年に入り一時、「1.5倍未満」まで下げている。年初来の下落率は、最大40%を超えた。

これは、バイデン政権が掲げる非現実的なEVシフト目標と実需の乖離が広く認知され、ウォール街が現実に立ち返ったからだと考えられる。

加えて2023年後半から各種世論調査の経済政策面における支持率で、バイデン大統領はトランプ前大統領に負け始めているが、テスラ株の下落はこれと時期が重なる。

具体的な数字を見ると、直近の2024年1~3月期にテスラ販売台数は大幅な値引きにもかかわらず38万7000台と、市場予想の販売台数である44万9000台を大きく下回っている。

この実績は、前年同期の48万4000台より約10万台も少なく、売れずに積み上がった在庫は16万台に達したとブルームバーグは推定している。

テスラの利益率が急降下

本業からどのくらい効率的に利益を出せたかが判る営業利益率は2024年1~3月期で5.5%と、トヨタの11.13%を下回っている。

また、ブルームバーグが発表した2024年通年予想では、テスラが8.7%まで低下する一方、トヨタは11.9%まで上昇する。

2022年に、テスラの営業利益率がおよそ17%、トヨタは約8%であったことを思えば、テスラの強みが失われつつあることは明らかだ。

「10年で自動車生産の半分はEV」を自ら否定

イーロン・マスク氏も豊田章男氏も、目指す方向性は似ている。販売台数で稼ぐ大衆車路線である。

だが、トヨタはラインナップも豊富で、あらゆる階層のニーズに対応している。それに対し、マスク氏のテスラはEV一本足で、しかも高級モデルに偏っており、これまでは主に裕福層を相手にするビジネスモデルで勝負していた。

テスラのEV専業や垂直統合型の経営、アルミダイカストでEVの車体構造を一体成形する技術のギガキャスト、ハードウェアでなくオンラインのソフトウェア改修でEVの性能を上げるOTAなどは、トヨタがかなわない強みであるとされてきた。

だが、それも株式市場が天井知らずの拡大を続け、カネに糸目をつけない「テスラ信者」が購買層である限り持続できた経営モデルだ。

マスク氏は2017年7月に、「この先10年で米国における自動車生産の半分はEVになる」と楽観的な見通しを語っていた。

だが、テスラの時価総額がピークを付ける直前の2021年10月にはより現実的になり、「すべての内燃機関車をEVで置き換えるには、最低でも30年から40年という長い時間がかかる」と発言していた。

「EVがいずれ行き詰まる」のをイーロン・マスク氏自身も認識

EVはいまだ価格が高く、不便で、運転時や再販時のリスクも山積し、多数を占める一般消費者は手を出していない。そのため、普及がいずれ行き詰るのは自明のことで、聡明なマスク氏自身も、おそらくは少し前から認識していたのだ。

特に、バッテリーが重すぎる、充電時間が長すぎる、厳寒に弱いなどの構造的なハードの問題は、ソフトで改修できない欠陥だ。

その文脈で考えると、バイデン政権がEVシフトを推進した初期にテスラの時価総額がトヨタの5倍に近づいたのは、宇宙開発にまで広がる壮大なビジョンを持ち、金融からクルマまで、マルチな経営の才能を開花させたマスク氏の「魔法」にウォール街が幻惑されていたからではないだろうか。

豊田章男氏の「地に足のついた経営」

それに対し、豊田章男氏率いるトヨタは、ハイブリッド車というすでにある技術をさらに磨くという、いかにも地味な手法を採っていた。おまけに、EVという錦の御旗に逆らう反動勢力のようにレッテルを貼られ、メディアから叩かれた。

だが豊田章男氏は動じなかった。彼は、こう語っている。

「私が出るしかない。『はい、私が責任者です』と名乗り出ることで、叩かれるのは私になる。そうすれば、うちの現場は元に戻れます。現場はちゃんと動くんです。大切なのは現場をしっかりと動かすこと」

EVに代わってハイブリッド車が選好されるようになった今、豊田章男氏の言うように現場がしっかり動き、トヨタはハイブリッド車の需要拡大にしっかり応えている。4月17日に看板ハイブリッド車である新型プリウスの品質不具合で生産を停止し、全世界で21万台以上をリコール。2023年度の純利益まるごとに相当する110億円を費用として計上するなど、問題なしとは言えないが、テスラと比較すると「地に足がついた経営」と言えよう。

イーロン・マスク氏の報酬は豊田章男氏の約700倍

その豊田章男会長の2022年度の役員報酬は、前年比45.8%アップの9億9000万円であった。

内訳は、職責や成果を反映した「固定報酬」が前年より6000万円多い2億6400万円、賞与と株式報酬からなる「業績連動報酬」が2億5400万円多い7億3500万円だった。これはトヨタの日本人の役員として過去最高の金額だという。

一方、テスラのマスク氏は2021年に6500億ドルの時価総額目標を達成したことを根拠に、約束の成功報酬である2020万株のストックオプション(ピーク時に8兆円相当、株価が下がった現在は7兆円)を要求している。

これは2018年に取締役会と株主が承認した「10年型の業績連動報酬」であり、裁判所が無効判決を出したものの、控訴中のマスク氏には受け取る権利があるだろう。(なお、マスク氏は2018年から1ドルの報酬もテスラから受けていない。)

だが、EV需要の読み誤りや、自らの首を絞める大幅値引き、中国で台頭する競合に対し効果的な対抗策を打ち出せないことで、テスラの時価総額がピーク時より7000億ドル(約108兆円)以上もダダ下がりする中、年換算で7000億円相当の報酬が将来的に正当化できるのか、という議論はあるだろう。

豊田章男氏の約10億円と比較して、約700倍と、文字通り桁違いであるからだ。

テスラは「成長なき成長企業」となってしまった

イーロン・マスク氏は、「イノベーションを生むために巨額報酬は正当化される」と主張する。

だが、少なくとも過去10年ほどのスパンにおいて、イーロン・マスク氏は市場を長期的に見極める力において、豊田章男氏にかなわなかった。

さらに、テスラが次なる「メシの種」として育てている「完全自動運転(FSD)のロボタクシー」「安価モデル発売」「インドなど大きなフロンティア市場」などの切り札は、いずれも現状では販売回復の特効薬にはならないと思われる。

また、4月24日の決算発表でマスクCEOが、詳細不明の廉価モデルを2025年に発売し、今年8月に自動運転タクシー「サイバーキャブ」を発表するほか、テスラをAIおよびエネルギー貯蔵バッテリー企業に変革してゆくと語ったことで株価は翌日に12%も上昇し、時価総額は4月26日現在で5333億ドル(約83兆円)まで戻しているが、ウォール街が具体性に欠ける「夢」にいつまで賭けられるかは不明だ。

投資情報サイトの米バロンズは4月3日付の記事で、「投資家にとり大切なのは企業の成長が継続することだ。2023~2026年のテスラの売り上げ・収益成長はほんの数カ月前の予想である25%から15%に引き下げられている。一方、トヨタの同期間の成長予測は20%だ」と指摘した。

金融大手の米ウェルズ・ファーゴでアナリストを務めるコリン・ランガン氏が3月に指摘したように、テスラは「成長なき成長企業」となってしまった。

これに対し、トヨタは短期的な大化けはないかもしれないが、今後もハイブリッド車などで堅調な成長が続くと予想される。

こうして見ると、豊田章男氏は株主にとって極めて長期的にコスパのよい経営者であると言えるだろう。

安定して成長と収益をもたらし、役員報酬も年間10億円と低めであるからだ。

時価総額が急落中であるのに年換算7000億円の報酬をもらうマスク氏は、彼以外のテスラ株主にとっては必ずしも長期的なコスパが良くないかもしれない。

———- 岩田 太郎(いわた・たろう) 在米ジャーナリスト 米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。 ———-

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