ディズニー王国に暗雲、コロナ後の魔法が消失
米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーにとって、観光客が物言う投資家ネルソン・ペルツ氏の時間軸で動いていないことは幸いだ。
ディズニーの業績を厳しく批判していたペルツ氏との委任状争奪戦に勝利してから約1カ月後、同社が7日発表した1-3月期(第2四半期)決算は好悪入り交じった内容となった。決算自体は、動画ストリーミング部門の消費者直販エンターテインメント事業の営業損益が予期せず初の黒字となり、スポーツ配信を手掛けるESPN事業の国内の増収ペースが加速するなど明るい材料がいくつかあった。
しかし、ディズニーは決算発表の中で、主にテーマパークで構成されるエクスペリエンス部門の営業利益が4-6月期は横ばいになるとの見通しを示した。これはアナリストを失望させた。ファクトセットのコンセンサス予想によれば、アナリストは同セグメントの営業利益が前年同期比12%増になると見込んでいた。ヒュー・ジョンソン最高財務責任者(CFO)は決算会見で営業利益の伸び悩みの一因に「新型コロナウイルス後の需要の一部正常化」を挙げた。
ディズニーの株価は7日の市場で約10%安で引けた。テーマパークに関する見通しは、同社が好調を維持するために何としても必要な事業の需要鈍化を懸念させる。動画ストリーミングの普及でディズニーのケーブルテレビ帝国は縮小し、劇場映画事業は昨年のハリウッドのストライキによる長引く影響や注目度の高いマーベルや「スター・ウォーズ」フランチャイズの低迷など、さまざまな困難に直面している。ストリーミングへの移行もコストがかかり、消費者直販エンターテインメント部門の営業損益は、1-3月期に予想外の黒字となったものの、直近12カ月では10億ドル(約1550億円)以上の赤字を積み上げている。
そのためテーマパークは現在、重要な安定した収入源となっている。また、利益にも大きく貢献している。コロナによる移動制限が緩和され、消費者が潤沢な余剰資金を支出し始める中で、2021年後半からテーマパーク需要が急増し、同部門は大きな恩恵を受けた。国内外を合わせたテーマパークの売上高は、3月末までの12カ月間で総売上高の3分の1しか占めていないが、総営業利益の52%をもたらした。
したがって、ディズニーの投資家がテーマパークに関する懸念を重視しがちなのも当然だ。7日の株価下落は、1日の下落率としては22年11月以降で最大となった。22年11月は、惨たんたる決算を受けて株価が13%以上急落し、最終的に当時のボブ・チャペック最高経営責任者(CEO)は職を失うことになった。
当時の決算でもテーマパークの利益が期待外れだったことが響いた。テーマパーク部門の営業利益は当時のアナリスト予想を27%下回った。その3カ月後、ボブ・アイガー氏は自身のCEO復帰後初めて開いた決算会見で「私はパークについて非常に強気だ。コロナからの回復だけが理由ではない」と述べた。同社はその後、向こう10年間でテーマパーク、クルーズ船、リゾートに600億ドルの設備投資を行う計画を発表した。この投資は絶好のタイミングで行われる。ユニバーサルは来年、米フロリダ州のディズニーの旗艦施設の近くに大規模な新しいテーマパークをオープンする予定だ。
アイガー氏は7日、新クルーズ船「ディズニー・トレジャー」と「ディズニー・アドベンチャー」のプレオープン費用などの一時的コストがテーマパーク部門の短期利益を圧迫する最大の要因になるが、予約状況は「事業の健全な成長」を示していると述べた。しかし、ディズニーは株価が高騰する中で決算発表を迎えた。同社株のパフォーマンスは年初来で29%高とネットフリックスをはじめとする同業他社を大きく上回っていた。株価の好調はペルツ氏の批判をはね返すのに役立ったが、最新の決算でミスを犯す余地はほとんどなくなっていた。
魔法の王国は、財宝が入り続けることを示す必要がある。