ゴミ出しの問い合わせにAIが架空の部署案内、正答率は目標に届かず「市民向けには時期尚早」
生成AIが表示した回答を読む香川県三豊市職員の岡崎さん(手前)と荒脇さん(香川県三豊市役所で)
■[生成AI考]第2部 悩める現場<2>
瀬戸内海に面し、製造業や農業が盛んな香川県三豊(みとよ)市。環境衛生課課長補佐の岡崎英司さん(51)は昨年11月、役所のパソコン画面を見て、嘆息した。
視線の先には、実証実験中の対話型AI(人工知能)サービス「チャットGPT」が表示した文章。ゴミ出しに関する質問の答えに大きな間違いがあった。
〈エアコンやテレビはどこで捨てられますか?〉
〈観音寺市環境衛生課にお問い合わせください〉
三豊市に問い合わせるか、隣接する観音寺市のリサイクル業者などに持ち込むはずが、観音寺市の実在しない部署を案内してしまった。ほかにも、プラスチック製の納豆パックを〈燃えるゴミ〉としたり、モバイルバッテリーについて発火の可能性がある捨て方を表示したり、岡崎さんの悩みは深まるばかりだった。
三豊市は昨年6月から、生成AIに詳しい東京大学の研究室の協力を得て、ゴミ出しに関する問い合わせシステムの実証実験を始めた。6万人余りが暮らす市には最近、技能実習生など外国語を話す住民も増えている。24時間いつでもゴミの出し方に関する市民の疑問に様々な言語で答えてくれる。そうすれば職員の負担が減る。AIへの期待は大きかった。
だが、「誤回答」が大きな壁となった。目指した正答率は「99%以上」。4000件を超える質問をAIに学習させ、当初の63%から94%まで向上したが、それが限界だった。東大研究室の担当者は「今の技術では、正答率をさらに上げるのは難しい」と話す。
同市は、誤情報の表示でゴミ出しのルールが守られなかったり、問い合わせが増えたりして、かえって職員の負担が増える恐れがあると考え、昨年12月に本格的な導入の見送りを決めた。当時のデジタル推進室長で現在は地域戦略課課長の荒脇健司さん(49)は「正確な情報を届けるのが行政の役目。市民向けに使うのは時期尚早だと判断した」と話す。
同市では東大の研究室と連携し、別の業務での活用を検討している。
生成AIは、人間が答えるかのように文章を作り出し、仕事の効率化が期待される。一方で、事実と異なる回答を示すことがあり、リスクの一つとなっている。
人口約1万5200人の北海道当別町は昨年10月、チャットGPTを約200人いる全職員のパソコンに導入した。仕事を掛け持ちする職員も多く、業務の効率化は大きな課題。アイデア出しや会議資料の作成などに使い、議事録の要約では業務量が半減した。市民向けサービスへの導入も目指す中で知ったのが、三豊市の「導入断念」だった。
デジタル都市推進課主幹の碓井洋寿さん(41)は「生成AIをうまく使いこなすことが町の生き残る道だが、住民サービスには正答率が高くなければ簡単には導入できないと衝撃を受けた。さらなる高みを目指さないといけない」と話す。同町では今春からデジタルに詳しい各部署の職員を「伝道師」に任命し活用をさらに進めるが、市民向けサービスについてはまだ具体化していないという。
全国地域情報化推進協会の吉本明平担当部長は「人口減少や少子高齢化によって、自治体ではさらに職員不足や業務の逼迫(ひっぱく)が予想され、地方ほど生成AIへの期待は高い」とみる。一方で、誤情報の表示など課題も多く、吉本氏は「今の技術では致命的なミスもあるため、あくまで『職員のサポート』という限定的な使い方をする必要があるだろう」と語る。