ウクライナ軍、装甲兵員輸送車も1000両不足 カナダからの50両は1年待ち
ウクライナ軍、装甲兵員輸送車も1000両不足 カナダからの50両は1年待ち
ウクライナ軍の疲弊した戦闘旅団にとって、何より必要なのはまず、砲弾、防空兵器、そして新しい歩兵だ。
4番目に必要なのが、装甲兵員輸送車(APC)だ。機動力が高く、整備しやすい装甲兵員輸送車は、兵士たちを銃撃や砲弾の破片から守りながら、戦闘陣地間を迅速に移動させることができる。
カナダからのバイソン装甲兵員輸送車の新たな引き渡しが遅々として進んでいないことに、ウクライナ側が苛立ちを募らせているのも、より重武装の歩兵戦闘車(IFV)と並んで装甲兵員輸送車を切実に必要としているからにほかならない。
ウクライナは、2年あまりかけてカナダからバイソンを89両取得することになっている。もちろん、数は少なくとも装甲兵員輸送車をいくらか取得できるのなら、まったく手に入らないよりはましだろう。だが、もし数百両を手早く取得できるのであれば、そちらのほうがずっといいのは間違いない。
カナダ政府は2022年6月に、重量14t、乗員10人(操縦士、車長各1人と兵員8人)で装甲戦闘支援車両(ACSV)と呼ばれることもあるバイソンを39両ウクライナに譲渡すると発表した。これはカナダ軍で余剰になった中古品だった。続いて2023年9月、米ゼネラル・ダイナミクスのカナダ法人が新造するバイソン50両を追加供与すると表明した。車両計89両と予備部品、乗員訓練の経費を合わせると、およそ9億カナダドル(約1000億円)相当の支援になる。
中古のバイソン39両はすぐにウクライナに届き、ウクライナ軍に約100個ある旅団の数百個の大隊の1個に配備されたとみられる。うち1両は昨年、南部での戦闘で撃破されている。
一方、新しいバイソン50両(これも1個大隊分に相当)は、ウクライナの戦線に到着するのにかなり時間がかかっている。カナダのビル・ブレア国防相は4月26日、「50両のうち最初の10両は今夏に欧州に送られる」と明らかにした。ウクライナ兵が夏にこれらの車両で訓練を受けたあと、車両は秋にウクライナに移されるという段取りだという。
つまり、カナダはバイソン50両の供与を表明してからウクライナに引き渡すまでに、ざっと1年かかるということになる。
比較のために言えば、オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)分析サイト、オリックス(Oryx)の集計に基づくペースでは、ウクライナ軍は1年間に装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車を合計でおよそ500両失っている。
言うまでもなく、ウクライナに装甲車両を供与しているのはカナダだけではない。とくに米国とドイツ、ポーランドは、これまでに装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車を計数百両ウクライナに譲渡している。
2年2カ月あまり前にロシアがウクライナに対する戦争を拡大して以降、ウクライナの支援諸国全体では、装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車を合計で2000両ほど供与している。ウクライナがこれまでに失った旧ソ連製の装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車1000両ほどの補充に半分があてられたとすると、まだ1000両程度の余剰があると思うかもしれない。
問題は、2022年2月以降、ウクライナ軍の規模がほぼ2倍に拡大したことだ。ウクライナ軍が戦争拡大前に保有していた計2000両という旧ソ連製の装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車の数は、当時のおよそ50個の旅団では十分だったかもしれないが、100個旅団に増えるとまったく足りなくなった。西側から供与された2000両を加え、失った1000両を差し引くと、1000両が不足することになる。
ウクライナ軍の指揮官たちもこれが問題になることはわかっていた。ウクライナ軍の機械化旅団のある将校は昨年、フォーリン・ポリシー誌に「われわれは何もかも必要としていますが、おそらく最も緊急に必要なのは歩兵戦闘車でしょう」と語っている。
カナダの産業界が新しい装甲兵員輸送車50両を新造・出荷するのに1年かかるのというのは、別に不思議ではない。むしろ、自由なウクライナの友人たちから見て不可解なのは、カナダ政府は工場で新しいバイソン50両が出来上がるまで待つ必要はないということだ。カナダ政府にはウクライナに装甲兵員輸送車をただちに送る選択肢があったし、いまもある。
カナダ軍は古くなった装甲車両を退役させ、新しい装甲車両で置き換えている。それによって、バイソンやその兄弟車両のコヨーテ、あるいはM113といった古い装甲兵員輸送車400両あまりが余剰になった。
昨年秋、カナダ政府がこれらの車両をウクライナに譲渡するのでなく、すべて廃棄すると発表した時には疑問の声が噴出した。カナダ国防省は、これらの車両の多くは数十年にわたり酷使された結果、「状態が非常に悪い」と説明している。
だが、ウクライナの当局者少なくとも1人は気にしていない。ウクライナ議会の軍需品に関する委員会のトップを務めるオレクサンドラ・ウスティノバ議員は、カナダのCBCニュースに「ウクライナはジャンク品であっても受け取る用意があります。分解して3両から1両をつくり出そうとするでしょう」と話している。
また、カナダのオンタリオ州に本社を置くアーマテック・サバイバビリティー社は、これらの老朽化した車両の改修・更新の入札を自発的に申し出た。月に8両のペースでできるという。しかしウスティノバの嘆願やアーマテック社の提案を受けても、カナダ政府は古い車両をウクライナに供与する方向に動いていない。
その結果、ウクライナは、必要な装甲兵員輸送車の5%ほどにすぎない新しいバイソン50両が届くのを、1年間待たされている。
(forbes.com 原文)