まだまだ多くの人が知らない「対米従属」の「行き過ぎた実態」

大谷翔平選手が賭博に関与していた疑いについて、本人の関与が最小限であったことが明確にされ、出場停止などの大きな責任を問われることがなくなったことを嬉しく思う。大谷選手自身の責任が問われるとすれば、それは、あまりにも金銭に無頓着であり、通訳だった水原氏を信用し過ぎたということになるだろう。このように大変な精神的試練の中でも冷静に試合への出場を続け、相応の結果を示し続けていることには驚嘆するばかりで、これからもさらに活躍してほしいと切に願う。

私の心理学的な関心に引きつけて考えるのならば、大谷選手は水原通訳との共依存的な二者関係に深く巻き込まれ、過度にそこに依存していた。しかし今回の試練を経てそこから脱却し、然るべき検閲を受けて生き残り、社会的に真に独立した存在になろうとしている。このタイミングでご結婚されたのも、象徴的である。

まだまだ多くの人が知らない「対米従属」の「行き過ぎた実態」

〔PHOTO〕gettyimages

私は精神科医である。日頃の診療の中で、母子関係だったり、恋人同士だったりの関係が、過度に親密で排他的になり、特定の相手ばかりが理想化されて他の人が入り込む要素がなくなってしまっている状況に遭遇する。その場合に医師としてかかわりながら様子を観察していると、時間とともに、一方がその相方よりも精神的に早く成長する場合があり、その場合に二人の濃密すぎる関係性は危機に陥る。相手に向けていた過度な期待が非現実的なものであることが、次第に明らかになってくる。それが露見する瞬間には、相手への強い怒りや攻撃性が発揮されやすい。大谷選手は、この危険な場面でのダメージを最小限で抑えたように見える。

残念ながら水原氏について肯定的に語ることは難しい。それでも、以前には水原氏の貢献が大谷選手を支えてきたのは、間違いのない事実だ。強い言い方だが、野球以外の面で、幼児の世話をする母のように、水原氏が大谷選手をケアしていた面があった。このような関係性の病理について論じた本として、上岡陽江と大嶋栄子による『その後の不自由 「嵐」のあとを生きる人々』(医学書院)を挙げておく。そこで「ニコイチ」と語られているのが、このような関係性である。

さて、私の文章を何回か読んだことのある人は慣れてくださっていると思うのだが、ここからまたずいぶんと話を大きくするので、我慢して付き合ってほしい。大谷選手の「道一筋」「社会的なこと、特に金銭的なものには関心が薄くて不器用で弱い」というのは、日本の優秀な男の子たちに求められてきたあり方だった。しかし次第にそれは国際社会で通用しなくなっていることを示したのが、今回の出来事だと言える。

権力や暴力を背景に威嚇して従わせるのも力であるが、情緒にからめとって相手を操作するのも力の一つだ。残念ながら、日本人は社会や集団の秩序を維持するのに、そのような力ばかりを信じて、法をないがしろにする傾向がある。日本論の古典的名著で、講談社現代新書におさめられている中根千枝の『タテ社会の人間関係』から、前回と同じ言葉を引用する。

「とにかく、痛感することは、「権威主義」が悪の源でもなく、「民主主義」が混乱を生むものでもなく、それよりも、もっと根底にある日本人の習性である、「人」には従ったり(人を従えたり)、影響され(影響を与え)ても、「ルール」を設定したり、それに従う、という伝統がない社会であるということが、最も大きなガンになっているようである」

大谷選手は、そのガンを克服しようとしている。しかし、日本社会はこの「ガン」にとらわれたままではないだろうか。

人間の深層を扱う心理学では、「父―母―子」の三者以上で作られる社会的な関係と、それ以前の母子関係に代表されるような密着した二者関係を、性質が異なるものとして区別する。そして日本人は後者の二者関係を過度に理想化する傾向がある。もともとの歴史的な経緯からそのような面があったところに、近年の自民党の政策運営がそれに拍車をかけた。

三者関係以前の、幼児的な二者関係では、論理的な判断は重視されず、感覚的な判断が優先され、次のような性質を示すものが好まれる。

・心地よい

・慣れ親しんでいる

・身近である

逆に、何となく不快で、よく知らなくて、面倒くさく、難しく、流行から外れているものは、自動的に遠ざけられる。

為政者や経営者などは、自分が責任を持つ組織や集団のメンバーで、この心性が強くなることを望むだろう。自分たちに批判的な意見をメンバーから提出されても、その内容について真摯に勉強して応答しなくても乗り越えることができるからだ。痛烈な批判を受けても、批判した人やその発言が、「感じが悪い」「分からない」「聞いたことがない」と主張し、その主張した人の言い方の悪さを逆に咎めることで、その批判を却下することができる。小難しい議論をメンバーたちが軽蔑し、ひたすら仕事の狭い範囲の能力を高めることに没頭するようになり、預けているお金に大谷選手並に無関心でいてくれたら、為政者にとって理想的だ。そのような空気が醸成されている社会や集団の中で、上には媚びへつらい、下と見た相手に厳しく面倒な物事を押しつけるのが処世術となっていく。

自民党政権について批判されるのは、そのような関係性をアメリカと構築しており、それが行き過ぎているのでないかという点だ。対米従属という言葉で語られることもある。

次の段落は『自壊する日本の構造』におさめられた長谷川雄一の「自壊する日本の「原像」」からの引用である。

「対米従属」を語るとき、具体的には主に米軍に付与される「基地権」「裁判権」「統一指揮権」などが挙げられる。基地権とは日米行政協定(日米地位協定)に規定されている米軍の日本駐留に伴う特権であるが、実際的には軍事的必要から在日米軍基地を可能な限り自由に使用する権利を意味する。また裁判権は、米軍兵士が日本国内で犯罪を行ったときの日本側の裁判権が制限され、米側に有利になっていることを意味する。そして(統一)指揮権とは1952年と1954年の米国側の資料である密約文書からわかるように、有事の際、自衛隊は米軍司令官による指揮下に入ることを指している。だが「対米従属」の肝ともいうべきこれらの米軍の特権についての認識をもつ一般の日本国民はごく少数であるといる。なぜ「対米従属」の実態があまり知られていないかというと、一つは上記の米軍特権の詳細が、外部からは見えにくい日米政府間の「密約」によって成立しているからであり、もう一つは現在在日米軍基地のおよそ70パーセントが沖縄に集中していて、本土に住む一般の日本国民からすると沖縄ほど米軍の存在が目立たないからである。

筆者は、対米従属についての認識が日本人に広がらない第三の理由として、多くの日本人に、「触らぬ神に祟りなし」「見ざる、言わざる、聞かざる」「上の不始末は見て見ぬふりをするのが最上」という心理や処世感が働いていることを付け加えたい。なお、「対米従属」について興味のある方は、同書におさめられている豊田祐基子「「異形」の安全保障と沖縄-日米関係史の中で」や、栗田尚弥「「極東条項の崩壊」-米軍第一軍団司令部のキャンプ座間移転をめぐって」、それらの論文に収められている参考文献にも当たっていただきたい。

安全保障をめぐる日米の一体化は、時代とともに加速している。1995年にアメリカの国防次官補であったジョセフ・ナイがまとめた「東アジア戦略報告」というレポートでは、在日米軍基地の役割を、冷戦後には日本の防衛や極東の平和・安全だけではなく、アメリカが広くアジア太平洋地域の安全保障に関与するための鍵になるものへと拡大することが主張されていた。日本政府はこのレポートに即座に好意的に反応した。1995年に「防衛計画の大綱」が改訂され、それを受けて1999年にガイドライン関連法が成立した。この法律によって、日本は朝鮮半島ほか周辺地域での武力抗争などに対処する米軍を、自衛隊などの行動によって積極的に支援しなければならなくなった(堀有伸「日本的ナルシシズムという構造と自壊」前掲書所収)。

注目しておきたいのは、この一連の動きの中で、国会での審議を通じて法律として成立した決定事項もふくまれているが、単なる閣議決定だけで進められている約束事が多いことである。法が関係した、あるいは国民を介した三者関係のなかで決まるのではなく、日米両政府間の二者関係だけの取り組みで動いている部分が大きい。つまり、安全保障をめぐる日米関係は、共依存、「ニコイチ」と呼べるような性質を強めている。心配なのは、世界とアメリカが進歩していくなかで、日本だけが日米関係のみに依存することで取り残され、大谷選手に切り捨てられた水原氏のようになってしまうことだ。

一方で世界全体に目を転じると、アメリカを中心とした世界秩序が動揺している。BRICSの台頭やロシアのウクライナ侵攻などの外的要因はもちろん大きい。しかし、イスラエルの問題にもっとも顕著に現れているのだが、自由や平和・法的手段の尊重といった世界秩序を維持する価値を、アメリカ自身が毀損する局面がくり返されたために、その権威が低下していることの影響が小さくない。イスラエルの行き過ぎた行動とそれを強く批判できないアメリカに対しての不満が世界中で高まっている。その文脈で4月11日にアメリカ議会で行われた岸田首相の演説の意味も考えることができる。イスラエルのことに触れないまま、「アメリカの孤独」に同情と共感を示し、もっと自信を持ってほしいとスピーチした。これについて、日本がアメリカに対して「ニコイチ」の関係性を保ちながらサポートし続けるという意思表示だと受け取った人も、世界の中で少なくなかっただろう。

「自由主義陣営の理念」といった抽象的な価値への日本人の理解と関心は乏しい。「西側陣営につくこと」はつまり、西側陣営のトップであるアメリカと具体的かつ感情的につながることになってしまう。もう一度、中根千枝の「根底にある日本人の習性である、「人」には従ったり(人を従えたり)、影響され(影響を与え)ても、「ルール」を設定したり、それに従う、という伝統がない社会であるということが、最も大きなガンになっている」という言葉についてふりかえりたい。

アメリカが他国に侵攻する場合、その国が戦後に日本のようにアメリカに従順になってくれることを期待した場合もあったようだ。そうならば、日本の過度の従順さが、アメリカを誤らせた面もあるかもしれない。さすがに、東京大空襲を指揮したアメリカの軍人カーチス・ルメイが、日本の航空自衛隊の育成に貢献したという理由で勲一等旭日大綬章を授与されていることを知った時には、「やり過ぎだ」と思った。

このようなことを書くと、特に極端な日本的リベラルの陣営に属する人々は、「アメリカ帝国主義打倒」などと叫び出し、一気に安保条約を破棄し、中国やロシアと協調することを主張するかもしれない。しかし筆者はそのような反応を支持しない。それはたとえるのならば、思春期のまだあらゆる面で親に頼っている子供が、一気に独立して生活することを目指して、本気で親にケンカを売ってしまうようなものだ。悲惨な結果になることが目に見えている。物事には手順も段階もある。日米関係の枠組みは堅持しながら、その実質を「ニコイチ」ではなく、対等な相互に独立した主体同士の関係性に近づけることを目指すべきだ。日本を除くG7加盟国が行ったイスラエル支持の共同声明に日本が加わらなかったことは、国家の矜持を保つ態度だったとして評価されるべきである。その上で今回の首相のスピーチでは、日米以外の世界の国々の存在を意識しながら、アメリカに対して、アメリカが主導してきた西側陣営の理念をイスラエルとの関係に適応するように求め、アメリカと西側陣営の権威を守るように求める動きが、さらにあっても良かったと考える。しかし、親分のやることに水をさす空気の読めない発言をして、アメリカ政府からの冷淡な反応を受けることは、与党関係者からはありえない恥ずかしい失敗だと認識されていたかもしれない。そこまで卑屈に振る舞っても、アメリカにとっての「ニコイチ」の本命はイスラエルだろうし、日本がイスラエルのようにひいきされることはない。不安から貢ぎ過ぎてしまい、そうすることでますます愛人から軽んじられるような立場に日本が陥らないことを願う。

日本以外のアジアの国々の様子にも目を向けておきたい。フィリピンは、米軍基地の撤退や訪問米軍に関する地位協定の再交渉などを通じて、国内政策の自主性を強化しつつ、戦略的な防衛協力を維持している。また、シンガポールは、地政学的な利点を活かし、アメリカとの経済的および軍事的関係を深めながらも、独立した外交政策を展開している。さらに韓国は、米国との軍事同盟を維持しながらも、北朝鮮との関係改善に努め、アメリカとの同盟関係を維持しつつ、独自の地政学的課題に対処している。

自民党のあり方にも満足はしていないが、野党のあり方も決して十分とは思えない。機会を見つけて野党や左派の批判についても書きたいと考えている。やはり、批判ばかりで、自分たちが主体的に物事の責任を取って社会を運営していくという気概が感じられない。

精神医学が専門の私には、政治的な選択肢を提示することはできない。しかし主張したいのは、政治的な意思決定以前の段階で、日本人の多くが大谷選手のように、病的な二者関係に依存する「ニコイチ」のあり方を脱却し、広く世界的な水準の社会関係の中で、独立した存在たりうる精神性を身につけることの重要性である。日本が長年続けてきた対米依存体質が、多くの国民にとって未だに認識されていないことの弊害は大きい。この問題を根本から解決するためには、教育を通じて国際政治についての理解を深め、自国の立場を明確にすることが不可欠だ。国民一人ひとりが政治に対する関心を高め、主体的に情報を得て行動することが求められている。水原通訳に依存しきっていた時の大谷選手のようであり続けてはならない。

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