じつは、認知症の予防は「40代からの過ごし方」で変わる…将来、”ボケない脳”を作る「食べ方」と「歩き方」の簡単なやり方
『2050年には全5261万世帯の44.3%に当たる2330万世帯が1人暮らしとなり、うち65歳以上の高齢者が半数近くを占める』
先月に厚労省の国立社会保障・人口問題研究所が公表したこの数字は一時Xでトレンドにランクインするなど、衝撃の波紋が広がっている。
“人生100年時代”と言われる一方で、歯止めの効かない少子高齢化が進む日本。先行きの見えない状況下で老後を迎えるにあたり、私たちはどう備え対処していけばよいのか。
お金、健康、法律など、各専門分野のスペシャリスト8人が老後を解説する『死に方のダンドリ』ではそんな備えと対処について詳細に明かした一冊だ。本稿でその一部を抜粋・編集。「老後困らないためのヒント」をお伝えする。
脳を若返らせる生活習慣5カ条
長生きが不可避となった時代に老化した脳を持ったまま、30年、40年と生き続けるのは大変です。人とのコミュニケーションもお金の管理も、若々しい脳がなければ難しくなります。
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ただ幸いなことに、ちょっとした努力をしさえすれば脳は何歳であっても若返ることが研究成果から明らかになっています。一生ボケない!脳を若返らせる5つの生活習慣をご紹介します。
ここ数年、私のクリニックに脳の不調を訴えて訪れる働き盛りの40代、50代が増えています。「物忘れがひどくなった」「集中力が落ちている」「仕事や家事でミスすることが増えた」とおっしゃり、認知症が始まったのではないかと心配されています。
こうした患者さんには脳の機能を回復させるための生活習慣の改善やちょっとしたトレーニングをおすすめしています。
認知症の兆しは40代、50代にある、という説があります。脳の衰えを実感したのなら、そこから脳のメンテナンスを始めるのがいいでしょう。認知症対策にもなります。
認知症は、食事、運動、睡眠などの生活習慣を見直すだけである程度の予防をすることが可能です。脳血管性認知症を起こさないためには脳血管障害を防ぐのが一番。
そのためには動脈硬化につながる高血圧や糖尿病などの生活習慣病にならないように気をつけることが必要です。アルツハイマー型認知症にも、生活習慣病の予防が効果的であることがわかっています。
生活習慣病を予防しつつ、日常生活を送りながら脳を活性化する工夫もしていきましょう。ここからは私が患者さんにおすすめしている、脳を若返らせる生活習慣5カ条を紹介します。
(1)バランスのよい食事をよく嚙んで食べよう
「これを食べれば認知症を防げる」というものはなく、逆に「これを食べたらダメ」というものもありません。野菜、肉、魚などをバランスよく食べることを心がけましょう。
栄養面からバランスを取ろうとすると難しく感じるかもしれませんが、食事の「彩り」に気を配れば、おのずとバランスのよい食事になり、抗酸化物質を含んだ食べ物も摂れるようになります。茶色や白色のものだけでなく、緑、黄色、赤などの食材が適度に入る食事を摂りましょう。
食事のときの「嚙む」行為にも意識的になりましょう。私たちは普段、食事のときの嚙む行為を何気なくやっています。しかし、嚙むことは認知症防止にとってじつは非常に重要です。
筋肉の運動によって脳に送られる情報の中でも、あごから送られる情報量はかなり多いとされています。よく咀嚼すると、大脳・小脳ともに血流が8~20%上昇します。
血流が増えると脳に栄養や酸素が行き渡ります。その結果、神経回路の増加が促されたり、細胞の働きを活性化したりする効果が得られます。
よく咀嚼した約2時間後には、脳内ではFGF(線維芽細胞増殖因子)と呼ばれる成長因子の量がピークを迎え、記憶力や集中力が高まり、学習効果も高まります。
嚙む回数の目安は、一口20~30回です。普段の食事をよく嚙んで食べるのはもちろん、毎日のメニューによく嚙まなければいけない食材を取り入れることをおすすめします。イカやタコ、根菜、キノコ類、切り干し大根などの乾物は嚙みごたえのある食材です。おやつとして、ガムを嚙むのもいいでしょう。
65歳以上の1000人を対象に行われた記憶力テストで、ガムを2分間嚙んで答えたときの正答率は嚙まないで答えたときの正答率より約15%以上高かったという結果が出ています。
(2)1日8000歩のウォーキングをしよう
今日からでも始められるトレーニングが「ウォーキング」です。毎日でなくて構いません。週に3、4回、「1日8000歩以上」を目標として歩いてみましょう。歩いているうちに少しずつ汗ばむくらいの速さで、だらだら歩きではなく、少し速めを意識してください。
歩くときは左右の腕を振りながら、かかとから着地してリズムよく歩きます。腕は大げさなくらい振ると歩幅が自然と広がり、速度が上がります。前方よりも、やや後方に腕を振るイメージで歩くと姿勢よく歩けます。
ウォーキングのような有酸素運動をすると、幸福感、情緒、心の安定などに関わる神経伝達物質「セロトニン」の分泌量が増えることがわかっています。
リズミカルな動きもセロトニンの分泌を促しますから、歩くのが楽しくなります。
飽きずに続けるために、歩数計やスマートフォン、スマートウォッチを使って歩数を記録しましょう。毎日の歩数をアプリに記録するか、ノートに書き写して残しておきます。
記録をつけていると「今日はこれだけ歩いた」という達成感や満足感が生まれるからです。達成感や満足感は脳に報酬物質を与え、快楽を感じさせてくれます。記録をつけているほうが続けやすくなります。
天候不良の日や真夏日のような酷暑の日にまで無理をして歩くことはありません。テレビの前で15分以上、大きな足踏みをしましょう。都市部にお住まいの方なら暑い日などは地下街やデパートの中を空いている時間帯に歩くのもいいでしょう。
歩くことが習慣化したら、いかに楽しく、脳を刺激するかを考えてみましょう。毎回同じ道を歩いているのだとしたら、ちょっとルートを変えてみてもいいでしょう。
同じ道ばかり歩いていると注意力を働かせる必要がなくなり、脳への刺激も少なくなってしまいます。いつものルートを逆回りしてみるだけで、脳には普段と異なるさまざまな刺激が入ってきます。ぜひ試してみてください。
歩く速度も変えてみましょう。普段の速さを基準として「ゆっくり」と「速く」を含めた3パターンの速さをつくってみてください。ウォーキングマシンを使った実験では、歩く速さを時速3km、5km、それ以上と変化させると、脳の中で働く部分が変わるという報告があります。
歩く速度は、腕を振る速さでコントロールできます。普段のウォーキングの中で「普段の速さ」「速く」を多めにして、「ゆっくり」は少なめで歩いてみてください。筋力や心肺機能を高めることができます。
ウォーキング中の「定点観測」も脳に刺激を与える効果があります。歩数を記録するアプリもあるおかげで、今は多くの方がスマートフォンを携帯してウォーキングをしていると思います。
四季の変化で木々の葉の色や日差しの角度はまったく違います。雲の形も刻一刻と変わっていくでしょう。気になる風景、いつもと違う風景を見つけたらカメラを向けてみてください。変化に敏感になる感性も脳に刺激を与えてくれますし、ウォーキングがますます楽しいものになります。
引き続き<【後編】40代からはじめる「認知症リスク」はこう防ぐ…将来“ボケない脳”をつくる生活習慣「睡眠」「趣味」「スマホ」との付き合い方>でも脳を若返らせる生活習慣5カ条を明かします。