「鉄オタ」石破茂氏に聞くローカル線の廃線問題 鉄道の役割と未来の在り方とは何か
地方のローカル線は、自然災害でひとたび寸断されるとそのまま廃線するケースも少なくない。永田町屈指の「鉄オタ」石破茂氏は、この問題をどう見るのか。AERA 2024年2月26日号より。
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──地震や台風など自然災害で被災した後、復旧されず廃線となるローカル線が増えています。
被災した鉄道をもう一回復旧させるには、大変なお金がかかります。鉄道会社としては、赤字路線は廃線にしたいとそもそも考えるでしょうから、被災をきっかけに廃線にすることが多くなるのでしょう。
──復旧にお金がかかるから、赤字路線は切ってしまえ、と。
鉄道が民間事業者である以上、そう考えるのは当然のこと。しかしそれは、鉄道が(施設の保有と運営とを分ける)上下分離方式を取っていないからです。公共交通ですべてのコストを民間に負わせているのは鉄道だけ。例えばバスであれば、バス会社が買うのはバスだけ。道路をつくる金を払うわけでも、信号機の維持費を払うわけでもない。同じ公共交通として、イコールフッティング(対等な競争条件)と言えるのか、経済の在り方として正しいのかという点は疑問です。
──そもそも災害時における鉄道の利点は何でしょうか。
鉄道がダメージを受けていなければ、鉄道による避難もできるし、救援物資を運ぶこともできる。あるいは鉄道の持っている居住性を生かして、医療を提供する病院列車にしたり、臨時の学校にする教室列車にすることもできるでしょう。
■ネットワークに着目
──2011年の東日本大震災で、燃料不足になった東北にガソリンや灯油などを運んだのは鉄道でした。
鉄道はつながっていなければ意味がなくて、そこに寸断があると運べない。鉄道の優位性は、少ない人数で大量の輸送ができることです。貨物列車は最大26両編成で10トントラック65台分の貨物を運べます。しかも、ドライバーは1人でも輸送そのものは可能です。
──ネットワーク維持の観点からも、鉄道は簡単につぶしてはいけないと感じます。
自然災害だけでなく、仮に原発がミサイル攻撃などでダメージを受け大勢の住民を避難させるというようなことになれば、車だと大渋滞になるので鉄道による避難のほうが合理的です。また、いわゆる有事の際に戦車や弾薬を運ぶのは、一義的には鉄道です。それらをどう評価するか。そうした議論は、あまりなされていない気がします。
──鉄道を立て直すために、日本でも上下分離方式の採用例は増えています。しかし、自治体の負担が大きすぎてできないという声も聞きます。
そうだと思います。ただでさえ、災害多発地帯は過疎地が多く、財政力が脆弱であるのに、鉄道を維持したかったら自己負担しろというのでは、とても持ち切れないということがあるわけです。
しかし、鉄道がネットワークである点に着目するならば、それは被災した自治体の負担のみで賄うべきなんだろうか。裨益(ひえき)する地域全体で負担してもいいのでは、という理屈は成り立つんだろうと思います。
──鉄道が被災した場合は原則、鉄道事業者が全額復旧経費を負担し、その後の維持運営も行うことになっています。そうしたスキームを変えることも必要では?
そうですね。ただ一方で、被災する前からほぼニーズがなく、1日に数人しか乗らないような路線で、どう見てもバスで代替した方がいいという地域はあります。公共交通の全体像を考えた上であれば、バスへの置き換えも私は否定しません。
■乗りたくなる鉄道に
──鉄道の未来を考えた時、これからはどのような鉄道の在り方が望まれるでしょう。
まずは乗りたくなる鉄道にしていくことです。それは、国ではなく鉄道事業者の役割でしょう。千葉の銚子電鉄などのように、ぬれ煎餅を考えたりイベント列車を走らせたり、経営者が努力している鉄道は元気です。加えて、その鉄道のある地域全体の魅力を高めるのは自治体の責務です。高齢化が進み、CO2(二酸化炭素)を削減しなければいけない時代に、鉄道が果たすべき役割は何なのか、議論を深める時に来ています。
(構成/編集部・野村昌二)
※AERA 2024年2月26日号