「野球を知らないんじゃないか?」巨人・阿部監督の秋広選手への発言はパワハラに該当しないのか? 弁護士が真面目に解説
巨人・阿部慎之助監督(左)の秋広優人選手への発言はパワハラに該当しないのか
様々な職場環境で起こり得るのがパワー・ハラスメント、通称パワハラだ。それでは、プロ野球の監督と選手の関係性のうえではどう捉えられるのか。読者からのお便りに回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【写真】おちょぼ口でスイングポーズ 今年の那覇キャンプでおどける阿部慎之助監督
【相談】
巨人・阿部慎之助監督の会見での秋広優人選手に対する発言がひどい。凡打した試合では「彼(秋広)は野球を知らないんじゃないか」といったり、台湾遠征でも「ボールへの反応が悪かったのは(秋広が)チアガールを見てたからじゃないかね」とバカにしたり……。プロ野球の監督のパワハラ発言って、許されるのですか。
【回答】
プロ球団の監督は、選手起用の決定権を持つので、選手に対して優越的立場にあります。パワハラとは、優越的関係を背景として行なわれた業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で、職場環境が悪化されることをいいます。
取材に対する発言は、本人やチーム内に伝わることは明らかです。野球知識がないとか、女性が気になって仕事をしていないという発言は、普通の職場だと必要かつ相当の範囲を超え、職場環境を悪化させるといえます。しかし、プロ野球の試合や練習は、個人事業主である選手が、自らの技量を示して協力しあったり、競争したりする場ですから、そもそも労働者の職場というべきか疑問を感じます。
また、周りが憤慨しても、ハッパをかける発言であったり、チーム内でも奮起を期待しただけと捉えられれば本人も受け入れ、格別チームの雰囲気は悪くならない場合もあります。私は球団と交わしている契約の内容、選手たちのプライド、図太さ等の意識レベルはわかりませんので、パワハラになるかについては何ともいえません。
ただ、人前でバカにし、社会的評価を貶めると名誉毀損です。社会的評価に影響しなくても、侮辱する言動で名誉感情を傷つけ、社会通念上許される限度を超えれば、人格権侵害の不法行為になります。
監督発言は、テレビ取材に答えた発言であり、いずれも名誉にかかわることですが、プロ野球選手の本業に関する発言で一般の関心事ですし、それが本当のことなら名誉毀損にはならないと思います。
ともあれ、当該選手の感受性が普通程度なら名誉感情を侵害しそうですが、本業の成績に関わることであり、正しい評価であれば、受忍範囲でしょう。それでも、あなたの意見は正論です。監督と選手が互いに尊敬し合う紳士的な関係をファンは望んでいるからです。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2024年5月17・24日号