「道長に救われた」道兼役玉置玲央インタビュー㊦「光る君へ」人間味あふれる悪役の最期
関白になった直後、病に倒れた道兼=第18回より、NHK提供
平安時代、長編小説「源氏物語」を書いた紫式部が主人公のNHK大河ドラマ「光る君へ」。藤原道長(柄本佑)の次兄、道兼を演じたのが玉置玲央だ。5日放送の第18回「岐路」で、道兼は疫病のため、関白になってわずか7日でこの世を去った。衝動を抑えきれない性格と暴力性を抱えていたが、道長に救われてから再起。名作には欠かせない、個性あふれる魅力的な悪役を演じきった。
自暴自棄になる道兼を励ます道長=第15回より、NHK提供
「少しだけ真人間に」
まひろ(後の紫式部、吉高由里子)の母親、ちやは(国仲涼子)を殺害したことを父親の兼家(段田安則)に知られてしまい、一族の繁栄のため、汚れ仕事を背負わされてきた。物語を通して一番変化したのが、道長との関係だ。
いらだちの矛先が道長に向かうこともたびたびあった。ちやは殺害の因縁もあり、度々衝突してきた。だが、兼家から後継指名されなかった道兼を救ったのは、道長だった。「1番信奉していて、かつ柱だったのが父親。自分の中で柱になってた存在がパキっと折れて崩れた。そこを救ってくれた。道長のおかげで少しだけ真人間になれた」
内裏での勤めも放棄し、藤原公任の屋敷で酒に溺れていた道兼を訪ね、道長は兄に語り掛けた。死ぬことすら口にする道兼に対してかけた言葉はどこまでも温かかった。
「兄上にこの世で幸せになっていただきとうございます」「しっかりなさいませ。父上はもうおられないのですから」-。道長の強い言葉とやさしいまなざしに、道兼の心が動いた。
この時のやり取りを振り返り、「避けず逃げず、きちんと今、道兼に必要な言葉を道長がぶつけてくれた。すごいエネルギーのいること。道長の中でも乗り越えなきゃいけないことがいっぱいあったやり取りだと思う。あれで道兼の中での道長への感情がガラッと変わった」と語る。
悲田院を訪れた道兼と道長=第16回より、NHK提供
そこからの道兼は、これまでの凶暴性や衝動性が消えて、人が変わったように道長とともによりよい政治を志すようになった。
平安京に疫病がはやるなか、病人が集まる悲田院へ足を運んだ。道長に、「汚れ仕事はおれの役目だ」と告げた道兼の表情は、どこか吹っ切れたようなすがすがしさがあった。「汚れ仕事」という言葉がこれまでの意味とは違って聞こえた。
「(道兼は)自分が亡くなることなんて分かってないので想像でしかないですけど、自分の出世とか欲を解消するためじゃなくて、この先の道長の未来に対して、誰かのために汚れ役をちゃんと担っていくようになっていったということなのかな」と語る。
最期の笑いの意味
兼家の操り人形となり、自分を殺して生きてきた道兼は、自分の人生を歩み始めたと思った矢先に、あっけなく最期を迎えた。
ヒール役を自覚してきたし、SNSでも「道兼はろくな死に方をしない」と言われてきた。だが、「物語を盛り上げるための小道具として死んでいくみたいなことはきっとなくて、彼の1話から重ねてきたいろんな所業はあれど、きちんと納得のいく、意味のある幸せな死を迎えるんじゃないかなって、うっすら思っていました」。
道兼を抱きしめる道長=第18回より、NHK提供
関白になった直後に疫病で倒れた道兼。見舞いにきた道長が御簾の中に入ってくると追い返し、読経を始めるが、「俺は浄土に行こうとしているのか…無様だ…こんな悪人が」と笑った。
「自分をあざわらったのではないけれど、ある種のむなしさもあるし、心を開いて寄り添ってもらった結果、道長がそばにいてくれた喜びもあるし、それを踏まえて過去彼に犯してきたことの申し訳なさとか、いろんな意味が混じった笑いだったのかな。もちろん笑わざるを得ないというのもあるんじゃないかな」と語る。
衝動にまかせてちやはを殺害し、円融天皇退位の陰謀に加担。花山天皇をだまして出家させた。道長に救われて立ち直ったからこそ、これまで犯した罪が理解でき、より一層重くのしかかってきたのかもしれない。
道兼の笑い声を聞いた道長は再び御簾の内側に入り、苦しむ道兼を抱きしめ、体をさすり続けた。
柄本の提案で変更に
実はこの道長が道兼を看取るシーンは、台本から変更になった点があった。柄本が「道長なら御簾の内側に入るだろう」と提案したのだという。
「道長が御簾越しに道兼を見舞って去っていくっていうシーンだったのが 、リハーサルで、佑君が『道長は、御簾の中に入って兄に寄り添うよ』っていう提案をしてくれたんです」
演出担当が持ち帰って考えることになったが、撮影時も柄本は「やっぱりどうしても御簾の中に入っていきたい」と訴えたという。
「大石先生が書いた台本の通りに御簾越しに見舞った方がいい可能性ももちろんあった。でも、佑君が提案してくれて、貫き通してくれた。道長として道兼に最後に寄り添ってくれた。道長に救われたという思いが一方的なものじゃないってわかる瞬間だった」
悪役として汚れ仕事を担った道兼と、庶民を思いやり、心優しい道長。兄弟でありながら対照的な存在だった。「道長は劇中を通して、自分という存在をぶらさず 貫いてきた人物。その彼が、これだけぶれてきた兄に対して寄り添ってくれたっていうことにすごく救われました」
咳をして苦しむ道兼を抱きしめ、体をさする道長。カメラが止まった後も、咳が止まらくなったが、「カメラが止まってるのにずっとさすってくれて、『辛いよね、辛いよね』って言ってくれたのを今でも覚えています。自分の役割を全うできて幸せでした。今回共演できてよかったし、戦ってくれてありがとうって思いました」
序盤の物語をリードし、作中屈指の悪役としてSNSを沸かせた道兼。それは玉置の魅力的な演技があってこそだ。(油原聡子)
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玉置玲央
たまおき・れお 1985年生まれ。東京都出身。主な出演作に『サギデカ』、連続テレビ小説『おかえりモネ』、『大奥 Season2』、映画『教誨師』など。大河ドラマは『麒麟がくる』以来3作目の出演。