「推し疲れ」経験者は7割!逃れられない「推し疲れ」の実態とは?
推し疲れ企画
推しを応援する中で、疲弊感を覚える「推し疲れ」。ただ推しのことが好きだから始めた推し活なのに、なぜこうも心がすり減ってしまうのでしょう? 1億総オタク時代に見る推し疲れの原因と疲れた心の処方箋について、自身もイケメン俳優オタクであるライター・横川 良明さんに当事者目線で考察いただきます。
この記事を書いたのは…
ライター
横川 良明(よこがわ・よしあき)さん
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。著書に『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)がある。
Twitter:@fudge_2002
もはや回避困難! 「推し疲れ」とは
VOCEアンバサダー推し活経験者に聞いた、推し疲れ経験の有無(n=78)
今やすっかりメジャーになった「推し」というフレーズ。アイドル、俳優、声優、お笑い芸人から、アニメやゲームのキャラクター、さらには美容アイテムまで、何かしらの推しをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一方で、推しを応援することに疲弊感を覚える「推し疲れ」なる現象が話題に上がることも。VOCEアンバサダーへのアンケートによると、推し活経験者のうち67.9%の方が推し疲れを経験したことがあると回答しました。楽しむためにやっているはずの推し活になぜ心をすり減らされてしまうのか。1億総オタク時代に見る推し疲れの原因と対策について考察します。
あなたの推し疲れはどこから……?
ただ、一言で推し疲れと言っても、その理由はさまざま。ざっくり分けると、<推しがしんどい><運営がしんどい><人間関係がしんどい>の3つのケースが考えられます。そこで、ケース別に「推し疲れ」を感じる理由を探ります。
<Case1>愛しているのに・・・推しがしんどい
◆熱愛、結婚、脱退、解散。「大切なお知らせ」に心が突然空っぽになる問題
良くも悪くも推しは赤の他人。私たちは「自分の見たいところだけを見て」推しを応援しています。熱愛や結婚、グループからの脱退やグループそのものの解散は、推しの基本ステータスを揺るがす一大事。見たくないと思っていたものが見えてしまったり、見たいと思っていたものが見られなくなります。
「さようなら愛したあなたはもういない」
一句詠んでしまう悲しみです。
◆雑誌に舞台にインスタライブ。推しの供給に追いつかない問題
推しが売れてくれるのはありがたいこと。でも、推しの露出が増えれば増えるほど、そのすべてをチェックするのは至難のワザに。推しのカッコいいお写真を見られるのはうれしいですが、毎月の雑誌代もバカにはなりません。
人気の俳優・アーティストとなれば舞台やライブのチケットは即完。行きたくても物理的に遠すぎて行けないという地域格差もオタクの心を苦しめます。推しのすべてを知りたい。だけど全部は網羅できない。今この瞬間も推しが舞台に立っているのに、なぜ私はクリアしたドラクエをまた最初からやってるの? 推し、とりあえずインスタライブを昼間に突然するのはやめて〜!!
◆推しの言動にモヤモヤ。本当にこの人を推し続けていいのだろうか問題
人権意識が高まった昨今。推しに聖人であれと強要はしたくないけれど、できれば推しにはまっとうな倫理観を持っていてほしいと願う気持ちもまた事実。バラエティに出たときの何気ない発言に「女性のこと、下に見てる……?」と感じたり、ライブMCの際のメンバーに対する強めのイジリに「小学6年生かよ……」とドン引きしたり。中身を知れば知るほど、なぜ自分が推しているのかわからなくなることも。顔なの? まあ、顔ですけど!
◆この感情はもはや義務感? 推し活にもある3年目のジンクス問題
人間ですから、飽きは来ます。とは言え、推してきたなりの情もある。もはや特に燃え上がる気持ちもないのに、惰性でチケットをとったり、録画した番組を流し見したり。この時間があればもっと他のことができたのに一体何をしているんだろうと途方に暮れる日もあります。ですが、よく考えてください。恋人だって3年経ったら倦怠期に入りがち。推しとてそうなるのも自然の理なのです。
<Case2>正直に言わせてください。運営がしんどい
◆今日も虚無舞台にお金を払う……。逃れられない推しが人質問題
これは俳優推しあるあるですが、俳優は基本的に受け身のお仕事。よほど売れている俳優でない限り、なかなか自分で作品は選べません。ですから、時にはとんでもなくつまらない作品に出ることも。このときの虚無感ほどオタクを苦しめるものはありません。
ドラマならドラマで、これをあと3ヵ月も見続けるのかと罰ゲームのような気持ちになるし、舞台なんてどうしてこんな無為な時間に1万円も払い続けているのか頭がおかしくなりそう。僕が世界でいちばん嫌いなのは、住民税とつまらない舞台です。
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◆FC先行より当日券の方がなぜ良席? お金を積んでも報われない問題
たまにFC先行で取った席よりも、明らかに当日券と思われる席の方が良席なことがありますけど、あれは一体何なんでしょうか。時としてお金を積んでも報われないのがオタクの世界。運営に小言の一つや二つや三つや四つこぼしたくなったことがある人も多いでしょう。
毎月500円払ってるのに、マネージャーがスマホでぺろっと撮った写真がアップされるだけのファンクラブ。最速でチケットを取ったのに、後出しで別日にアフターイベントを発表する舞台制作会社。直前まで発表されない物販情報。もはやどこまでいけばオタクが怒るかを試すチキンレースでもやっているのかなと疑うほど手際の悪い運営もあったりします。これ、推しは決して悪くないところがまた地獄なんですよね。
◆遠征当日に公演中止。誰のせいでもないから怒れないけどコロナがしんどい問題
もはや運営が悪いわけでもないけど、しんどいこともある。それがコロナです。ここ数年はいつ推しの舞台やライブが公演中止になるかわからず、当日まで緊張感が抜けない日々が続きました。遠征先で公演中止が決まった日には、交通費からホテル代まで考えると、しばらく立ち直れないほどの徒労感。しかも、誰が悪いわけでもないから、おおっぴらに愚痴れないのが辛い。とりあえず気晴らしにバッティングセンターに行ってきます!
<Case3>SNSで加速! 人間関係がしんどい
◆お金を積んだ方が偉いの? 繰り返されるマウント合戦問題
推し活における最大の闇。それは、ファン同士の人間関係です。特にSNSが広まってからは、他のオタクたちの生態が可視化されるようになった分、余計に卑屈になったり嫉妬を覚えたりする機会が増えてしまいました。
推しに使えるお金は人それぞれ。よりお金を使った人の方が愛が大きいとは限りません。そうわかっていても、舞台を全通していたり、雑誌やグッズを全部集めてSNSにアップしたりしている人を見ると、心にモヤが。マウントと感じる自分が悪いのかと自己嫌悪に陥りますが、たまにマジでマウントの人もいるので、沼は地獄の釜湯と化すのです。
◆長く推してる方が偉いの? きっと縄文時代から続いている古参新規問題
マウントといえば、ファン歴の長さも材料になりがち。「昔から××くんは〜」と隙あらば古参アピールをしたり、謎のローカルルールが幅を利かせていたり。同じオタク同士、上下なんてあるはずないのに、無言のヒエラルキーを感じてゲンナリすることも少なくありません。
とはいえ、古参には古参の言い分があるもので。古参VS新規の対立は「箸の持ち方」「4°Cのネックレス」に並ぶTwitterの風物詩。どこかの沼が燃えているたび「今年もこの季節が来たか…」としみじみ感じるのでした。
◆今日もどこかで学級会。マナー講師も手に負えないオタクのマナー問題
推し活はマナーを守って楽しみたいもの。とはいえ中には、ファンクラブ限定の動画をSNSにアップしたり、出待ち入り待ちで推しに迷惑をかけたり、マナーを逸脱した行為で、周囲をモヤつかせる人もいます。しかもそれが野放しになっていると、「こちらは真面目にマナーを守っているのに、マナーを破っているあちらの方がいい思いをするのはなぜ……?」と歯がゆい気持ちに。
一方、マナー違反を取り締まるためにオタクたちによる「学級会」が頻繁に開かれると、それはそれで面倒くさい。次第にそれぞれの言動をオタク同士で監視するような雰囲気が広がり、優しい世界だった沼が隙を見せた者から狙われるバトルロイヤルに様変わり。ちょっとでも推しに対してネガティブなことを言おうものなら、たちまちに火の車。見えない同調圧力があるのは推し活もまた同じなのです。
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◆みんな違ってみんないい。金子みすゞスタイルが通用しないオタクの村社会問題
推しへの愛は人それぞれ。ガチ恋の人もいれば、神格化している人もいるし、箱推しの人もいれば、自担命もいます。そして、そのすべてが当人の自由。他人に迷惑をかけない限り、誰の推し方が間違っているわけでもありません。
それでも、たまに自分の推し方との違いに温度差を感じることも。熱愛発覚したお相手を攻撃している人もいれば、「推しの結婚を認められないなんてファンじゃない」と主語がデカい人もいて。それぞれ自由にやればいいとはわかっているものの、そういかないのはオタクが意外に狭い村社会だから。そんな中、こう思うわけです、「人間関係で悩むのはリアルだけにさせてくれ……!」と。
推し疲れの回復呪文は「横を見るな。推しを見ろ」
挙げれば他にもまだまだあるでしょうが、主たる推し疲れの原因は上記のようなところでしょうか。それぞれセンシティブな問題をはらんでいますが、人間関係に起因するものに関しては、対処法はわりと明確です。
スローガンは「横を見るな。推しを見ろ」。
そもそも推しのことが好きで始めた推し活。オタク仲間はあくまでオプションです。もちろんオタク仲間がいることで生まれる喜びもありますが、それがストレスになっているなら一度リセットしてみるのもありかも。
見たくないワードは随時ミュートに設定し、不用意に流れてくるネガティブ情報を事前回避。リアルの人間関係と違い、自分でコントロールしやすいのがSNSのメリットです。目につくとどす黒い感情に飲み込まれてしまいそうになるアカウントは、そっとミュートorブロックすることをオススメします。
リアルでつながっている場合でも、職場や学校、地域といったコミュニティと違い、生活上での接点がないのがオタク付き合いのいいところ。しんどい相手とは思い切って距離を置いてみても、それほど実生活に支障はないはず。
自分が思ったよりも周囲に影響を受けやすいタイプなんだなという自覚があるなら、いっそ「同担拒否」を選択するのも手です。古くからジャニーズ事務所のファンの間で使われている用語ですが、さすが日本のアイドル市場の第一人者だけあって、理にかなったシステムだなと、1億総オタク化が進んだ今感じています。
推している人さえ違えば、いい意味で他人事。相手の言動にモヤッとする機会も減るでしょうし、その上で推しがいる喜びをシェアし合えるメリットもあります。
そう思えば、推し疲れは、自分はどんなスタイルでオタクをやるのがいちばん楽しいかを考えるいい機会。ぜひ自分がハッピーになれるスタンスを見つけてください。
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イラスト/小鈴キリカ(vision track)