「バラエティの仕事がなければ、首を吊っていた」月に数十万の食費で生活困窮…遠野なぎこ(44)が経験した、摂食障害の苦しみ
〈 「母が不倫相手の局部写真を、幼い私に見せつけて…」母親から虐待を受けた遠野なぎこ(44)が、15歳で摂食障害になったワケ 〉から続く
15歳で摂食障害となり、現在もその症状と闘っている俳優の遠野なぎこさん(44)。中学時代に、遠野さんを虐待していた母親から「吐けば太らないのよ」と教えられ、食べ吐きをするようになったという。以来、摂食障害の治療を続けながら生活を送っている。彼女は、いったいどのような症状を持ち、どんな生活を送っているのだろうか?(全3回の2回目/ 3回目 に続く)
遠野なぎこさん ©佐藤亘/文藝春秋
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毎朝体重を測って一喜一憂する日々
――遠野さんは摂食障害になってから、どのような症状に悩みましたか。
遠野なぎこさん(以下、遠野) 私の場合、大きく分けて「拒食期」と「過食期」の2つがあり、過食期の中にも「過食期」と「過食嘔吐期」というのがあるんですね。過食期で吐きたくても、どうしても吐けないこともあるんです。
拒食期のときは、体重に異常に固執すると言いますか、毎朝起きてトイレに行ったら服を全部脱いで、体重計に乗ってしまう。精神科の先生がおっしゃるには、本当は週に1回だけ測るとか、そういう測り方をしたほうが良くて、毎日測ってはいけないそうなんです。体重に一喜一憂して、余計に食べられなくなってしまいますから。
――食事はどうしているのでしょうか。
遠野 とにかく食べられなくなるんです。実は今も拒食期でそうなんですが、病院で処方されている栄養補助ドリンクだけで400kcalくらいあるので、死なないためにそれだけはなんとか飲むようにして。それを飲むと200グラムくらい体重が増えるんですけど、先生から「増えると太るは違う」と教えてもらったので、「怖くない怖くない」と思いながら飲んでいます。
なんとか頑張って食べようとして「今日はみかん1個食べられた」とか「外食しておつまみを1つ食べた」とか、おいしいと思えなくても食べています。
過食期は食費だけで月に何十万円もかかってしまう
――過食期はどのような食生活なのでしょうか。
遠野 過食嘔吐のときは、朝、目が覚めた瞬間にもうモードに入ってしまっていて、顔も洗わずにスーパーやコンビニに行っておにぎりとかを何十個と買うんです。で、それを食べて吐くのを1日に最大5回もやってしまうんですね。だから、食費だけで月に何十万円もかかってしまって。
吐けない過食の時は、見た目がすごく太ってしまうから、摂食障害を治療されている方の中には、それで悲しんだり苦しんだりしている人も多くいらっしゃいます。摂食障害って、本人の意思でどうにかできる問題ではないので、やめたくてもやめられないし。私の場合は、拒食期や過食期の変化も、ある日突然スイッチが切り替わってしまうんです。
――ご自身が「摂食障害である」と認識したきっかけはなんでしたか。
遠野 とにかく食べられなくなって、15歳で病院に通い始めてからでしたね。でも保険が利かなかったから、病院代がすごく高くて、50分のカウンセリングで1万5000円とかするんですよ。それを自分でバイトしたりして稼ぐのが、結構きつかったです。当時、芸能界を休んでいた時期で、さらにうちの場合、親が出してくれるわけじゃないので。
拒食期だったので先生から「チョコレートと栄養ドリンクだけでもいいから摂ってください」と言われていました。
「生活がすごく苦しかった」摂食障害発症後、困窮したワケ
――経済的に困った時期があったのですね。
遠野 すごく困った時期がありましたね。クレジットカードを止められたこともありました。ただ食べて吐くというだけの行為に、恐ろしい額がかかってますから。多分これまでかかったお金で、都内の一等地に家が建つと思います。
私、多分バラエティ番組の仕事をしていなければ、もうとっくに首を吊っていたと思います。それくらい生活が苦しかった。
そういう意味では、強運の持ち主だったんじゃないかな。別に出たくて出ようとしていたわけではなかったけど、たまたまが重なって、バラエティの仕事をさせていただくようになったので。そのおかげで今、生きているんだと思います。
パートナーには「超少食だから引かないでね」と…
――パートナーがいらっしゃるときは、お相手に摂食障害についてお話をされるのでしょうか。
遠野 もちろん、します。じゃないと変だもん、ちょっとしか食べられないから。かなり痩せてしまっていることもありますし、あとはあちらがネットで私の情報を調べることもありますね。この1年半くらいマッチングアプリで活動しているので(笑)。
深い関係になる相手には「超少食だから引かないでね」と必ず言うようにしています。
――では、パートナーとお2人で生活される上ではとくに問題もなく?
遠野 一緒にご飯に行っても「私は食べたいものをちょっとだけつまむわね」と言って、焼き鳥1本をちびちび食べたりとか。それで何も言わないでいてくれると、楽ですね。「食べろよ」とか「太れよ」とか無理強いする人は無理だから、無関心でいてくれる人としかお付き合いしないです。
ドラマの本番直前に「何キロ増えたの?」と言われて…
――お休みの日は、どのようにして過ごしていますか。
遠野 お酒飲んでる(笑)。あとは録画しておいたグルメ番組を見てますね。私、グルメ番組が大好きで。あとは、見ていたらお腹空くかなと思って、胃を動かすためにも見てます。もはや趣味みたいなものですね。
――実際、グルメ番組に出てきたロケ地なんかに行ったりすることは?
遠野 行かない行かない、おうちの中にずっといたい派です(笑)。家でお酒飲んでるのが好きだし、安心するんですよ、おうちの中が。
――摂食障害になってから、周囲から心ないことを言われたことはありましたか。
遠野 ありますよ。過食期で太っていた時期に、ドラマの本番直前にメイクさんから「何キロ増えたの?」と言われたことがあって。もうどうしていいかわからないくらい震えちゃって、本番でセリフが何も出てこなくなっちゃったんですよ。大先輩もいる中で、何十テイクも撮り直しをしないといけなくなって、本当に恐ろしい思いをしました。今思えば「どうしてそんなことを聞くんだろう」と思いますけど。
吐けない過食のときは太ってしまうから、誰も心配してくれないんですよね。痩せていると心配されるけれど、太っていて「摂食障害だ」と言われてもピンとこないのか「どんな生活してるの? だらしない」と言われてしまったり。
摂食障害を公表後、インスタのコメント欄に変化が
――摂食障害イコール拒食だと思っている方も多いですよね。
遠野 そうなんです。インスタグラムでもよくメッセージをいただきますけれど、それで悩んでいる方もいっぱいいらっしゃって。自分で制御できる病気ではありませんから。
――遠野さんが摂食障害を公表してからは、どのような反響がありましたか。
遠野 インスタグラムのフォロワーさんは、すごく喜んでくださってます。同じ悩みを持っている方々が、コメント欄でご自身の症状を打ち明けてくれて。「感情を吐き出していい場所ができた」と感じてくれているみたいです。
私はこういう仕事をしているから公表できますし、インタビューしていただいたりもできますけど、一般のお仕事をされている方だと、まず誰にも言えないんですよね。言っても周りが理解してくれなかったりもしますし。
私は、そういう悩みだったり苦しみを、誰でも24時間365日吐き出していい場所としてインスタグラムを使っているんです。そうすることで、すごく安心してくれる方が増えたので、私は公表したことに意味があったと思います。
撮影=佐藤亘/文藝春秋
〈 母から虐待を受け、15歳で摂食障害に…「自殺願望に苦しめられた」遠野なぎこ(44)が、約30年の闘病生活で救われた瞬間 〉へ続く
(吉川 ばんび)