「クズ役はお手のもの」道兼役玉置玲央インタビュー㊤「光る君へ」表情豊かに悪役熱演
ちやはを殺害し、返り血を浴びた道兼=第1回より、NHK提供
平安時代、長編小説「源氏物語」を書いた紫式部が主人公のNHK大河ドラマ「光る君へ」。藤原道長(柄本佑)の次兄、道兼を演じるのが玉置玲央だ。一家の繁栄のため汚れ仕事を背負わされてきた悪役だが、にらんだり、憤慨したりと心情の変化をストレートに顔で表現した演技はSNSでも反響を呼んだ。
「ピッタリな役」
藤原氏の名門に生まれた道兼。父親の愛に飢え、優秀な長男の道隆に対するコンプレックスを抱えてきた。マイペースな弟の道長にいらだちを向けることもあった。
脚本担当の大石静からは、「玉置さんに今回ピッタリな役があるのよ」と言われたという。もともと殺人犯や不倫する弁護士など悪役を演じる機会が多かった。「僕、結構クズの役が多いんですよ。だから言い方もありますが、お手のものなんです(笑)」と振り返る。
まひろの母親、ちやはを殺害した道兼=第1回より、NHK提供
だが、道兼役は想像を超えていた。弟の道長に暴力を振るい、円融天皇退位の陰謀に加担。花山天皇をだまして出家させる。「『よし、やるぞ』っていう気持ちはあったんですが、蓋を開けて台本を見たら、『おい、なかなかじゃねえか』っていうのが来ました」と苦笑いする。
「ヘイト役全う」
ヒール役としての道兼を印象付けたのが第1回だ。物語の舞台は、平安時代。まひろと道長のラブストーリーと貴族社会での権力闘争が軸だ。大きな戦がない時代の平和な物語を想像していた視聴者に衝撃を与えたのが第1回のラスト。道兼がまひろの母親、ちやは(国仲涼子)を殺害したシーンだ。
「台本をいただいて、過去の大河ドラマではあまりない流れで、おもしろいじゃないかと正直思ったんです。ただ、1話が衝撃的な終わり方だったので、『こういう話が続くようだったら、今回は見なくていいや』ってなるのも嫌だった。そうなってしまうとしたら、きっかけは自分の所業なので、そういう意味ではプレッシャーはありました」と明かす。
返り血を浴びた道兼のすごみのある表情は、SNSでも話題になったが、肯定的に受け止められた。「自分でも、返り血浴びた顔を見て『こいつ、怖い』と思った」という。ただ、このシーンは物語の流れ上、大事なエピソード。「1話で離れてしまった方は実際いらっしゃると思うんです。けれど、道長とまひろの運命としてはものすごい大事な出来事」と語る。
父・兼家から後継指名されず、自暴自棄になる道兼=第15回より、NHK提供
さらに、共演者やスタッフが肯定してくれたのも心強かったという。「このままこの道兼のヘイト役、ヒール、ヴィランをきちんと全うしようと思えました」
今作での道兼の役割を尋ねると、「光る君へは、まひろと道長の物語。2人の物語がドラマティックに彩り豊かになれば」と話す。
凶暴性や衝動的な言動が注目されるが、父親からの愛情に飢えたさみしさ、内に秘めた弱さや悲しみも感じさせる奥行きのある演技があってこそ、視聴者に強烈なインパクトを残しているのだろう。道兼役を演じたことで、「改めてクズ役っていろんなやり方があるんだなって思えました。それはある種、今後のやりがいでもありますし、この作品の中でのやりがいでもあった」と話すが、「でも、いい人の役やりたいんですよ、本当は」と笑う。
心情が顔に
返り血を浴びたすごみのある表情、兼家(段田安則)から後継指名されなかったときの憤怒。表情豊かな演技がたびたびSNSで話題になった。「顔に関してこんなに反響があると思ってなかったんですよ。『そんな表情筋豊かって言われる?』と。自分の中でちょっと過剰にやってる節はあるかもですけど、そんなに頑張って目や表情筋とかを使ってるつもりはないんです」と明かす。
リハーサルでも「こういう顔をしよう」とは思っていないが、「ポジティブに捉えるならば、道兼をやろうとするとちゃんとああいう顔になるんだなって。結果良かったな」。
「とっとと死ね!」が転機
道兼というキャラクターにとって、父・兼家は特別な存在だった。ちやは殺害を知られてしまい、上級貴族の子弟でありながら、兼家に命じられるままに汚れ仕事を請け負ってきた。だが、兼家は後継に長男の道隆を指名した。その場にいた道兼は、鬼のような形相で激昂し、兼家に向かって、「この老いぼれが…。とっとと死ね!」と吐き捨てた。
道兼は、汚れ仕事を担うよう兼家から命じられる=第2回より、NHK提供
「道兼は自我を押し殺してきているキャラクター。1番信奉していた人物である父親に対して、あの言葉を吐けたっていうのは、すごい意味のあること。物語上インパクトのあるシーンとして演出されてますけど、彼の人生においても、ものすごい重要な瞬間だった」と語る。
家族のなかでも孤独だっただけに、父親に対して本音を吐露するこのシーンは、反響が大きかったという。「道兼なりに積み重ねたヘイトや、物語で描かれてきた働きぶりみたいなものが、実を結んだと深く感じました」。道兼の人生のターニングポイントのひとつだったと感じている。(油原聡子)
=玉置さんインタビュー㊦は5日に公開予定
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玉置玲央
たまおき・れお 1985年生まれ。東京都出身。主な出演作に『サギデカ』、連続テレビ小説『おかえりモネ』、『大奥 Season2』、映画『教誨師』など。大河ドラマは『麒麟がくる』以来3作目の出演。