「もらえる年金、これだけなの?」70歳まで働かなければ…46歳・非正規妻、夫が単身赴任終了で「手当無し」生き地獄
春は移動の季節。家族全員で引っ越しをするケースや夫が単身赴任、あるいは単身赴任先から夫が戻ってくるケースなどさまざまなケースがいまだにあるようです。今回は単身赴任の夫が3年後に戻ってくることが決まった、非正規雇用で働く46歳女性、板倉さんのケースをご紹介しましょう。
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単身赴任から戻ってくると、社宅から追い出され、夫も減給する可能性
単身赴任先から夫が戻ってくるのは家族にとっては喜ばしい限りなのですが、家計収支的には喜んでばかりもいかないケースがあるでしょう。板倉さんのケースはまさに単純に喜べないケースだったのです。
単身赴任から夫が戻ってくると現在無料の社宅費用が、毎月4万円発生することに。さらに夫の収入も減給になる可能性が出てきました。
板倉さん夫婦は70歳まで働く予定ですが、社宅費の発生、夫の減給などを考慮すると、定年退職まで社宅に住み続けるのは現実的に難しいようでした。そこで、今後数年内に社宅を出て、郊外に家を買って引っ越すことを考えることになりました。
購入する予定は中古マンションで、予算は経費込みで2500万円、住宅ローンを組まずに一括購入する予定とのこと。板倉さん自身は非正規社員としての生活が長いため、年金はあまり見込めないようです。定年後は夫の年金と退職金に頼ることになりそうです。
年間の世帯収入698万円、支出は480万円、年間218万円の黒字は全額貯蓄
現在、板倉さんの毎月の手取り収入は約15万円。夫は約37万円~40万円と述べていましたが、夫の手取り額は平均の38万5000円としました。合計すると毎月の手取り額は53万5000円、年間642万円です。夫には賞与年間70万円の支給がありますが、手取額は56万円として世帯収入は698万円としました。この他、板倉さんは副業のアルバイトを行っており、毎月の手取額は6万円がありましたが「続ける自身がない」ため家計収入には含めずに試算は行いました。
一方、毎月の支出は40万円程度、年間では480万円です。家計収支の黒字額は貯蓄・投資(以下「貯蓄等」)に回しているため、年間収入698万円、年間支出480万円の差額である218万円の黒字は全額貯蓄等に回すことにしました。
夫が単身赴任から戻ってきた場合の金融資産総額は1191万円
夫が単身赴任から戻ってくるのは3年後ですから、218万円×3年間で654万円の貯蓄等ができることになります。
板倉さんが現在保有する金融資産は、普通預金600万円、定期預金300万円、iDeCo30万円、つみたてNISA7万円の合計937万円ですが、普通預金の内400万円は長男の学費に充てる予定なので、実質の金融資産額は学費を差し引いた537万円としました。
学費の400万円には予備費を含めた目安で大学を4年間で卒業できれば余剰分を貯蓄する予定です。
というわけで、夫が単身赴任から戻ってきた場合の金融資産総額は、537万円に3年間の貯蓄等の654万円を加えると1191万円になります。
実は投資用マンションも手堅く2部屋保有
この他、板倉さんは投資用マンションを2部屋保有されていますが、家賃で借入金の返済等は行っており持ち出しはありません。また、マンションを購入する際には資金の足しにしても構わないと考えられています。
2部屋売却した場合には1000万円程度の売却益が見込めるようですが、売却したとしても予定されている諸費用込みのマンション代金2500万円には約300万円不足します。
マンション購入後も1年間の生活費程度の金融資産を保有しておきたいところから、不足額は300万円ではなく板倉さんの年間生活費480万円を加えた780万円前後と認識しておくべきです。
このままの資産形成プランでは、マンションは購入できないことに、それどころか毎月赤字になる可能性も
夫が単身赴任から戻る3年後では資金不足ですからマンション購入のタイミングとはいえません。ではいつマンション購入できますか、という話になりますが、板倉さんの現状の家計のままでは購入は難しいと言わざるを得ません。
夫が単身赴任から戻った場合、無料の社宅が有料になり月4万円、年間48万円の支出増が発生。戻られた場合には所属部署や役職も変わる予定なので、最悪毎月の手取り額は25万円程度まで下がるかもしれないそうです。
夫の手取り収入が最悪の25万円に減額となれば、板倉さんの収入を加えても月38万円5000円になり、毎月の支出40万円すら賄えないことになるのです。夫に賞与が支給されると考えても、収入の減少を考慮すればせいぜい家計収支の赤字額を補うことができる程度で黒字にはなりにくいと思われます。家計が黒字にならないのであれば金融資産額が増えないことになるためマンションの購入はできないということになるのです。
このままだと老後2000万円は用意できず…659万円足りません
板倉さん曰く、夫は退職金を1500万円から1800万円程度支給されるようですが、平均値の1650万円とすれば、金融資産額1191万円、投資マンションの売却代金1000万円を加えると合計3841万円になります。
退職年齢は不明なため一般的な60歳とすれば、60歳時点で2500万円のマンションを購入すると残金は1341万円になります。1341万円残るものの、話題になった老後資金2000万円には659万円足りません。
では老後資金2000万円はどうすれば準備できるのか…副業、通信費・保険料の削減など
とりあえず2000万円を目指すとすれば、夫が単身赴任から戻る3年後から60歳までの7年間に毎年約94万円を貯蓄等に回さなければなりません。
夫の収入が減額、社宅費は増加する中、長男が社会人になったとしても家計の支出を見直して年間94万円の貯蓄等をして行くのは難しいと思われます。このため今から家計支出を抑えることを目指すべきです。
不足額の659万円を今から備えるとすれば、夫が今50歳ですから、10年間の準備期間があります。
年間にすれば65万9000円になり、毎月にすれば約5万5000円です。支出の内訳に不明点があったためどの部分を削減したら良いのか詳細に述べることができませんが、一般論から言えば通信費、生命保険などの保険料が見直しの候補になるはずです。いつまでできるかわからないと述べていましたが、板倉さんが行われている副業費用を含めれば、副業している間は月6万円以上の貯蓄を増やすことは難しくないと思われます。
現実的には、70歳まで働かなければ老後資金2000万円を準備するのは難しい
60歳までに2000万円の準備が難しいようであれば、板倉さん夫妻は70歳まで働く予定と考えられているので、60歳以降も貯蓄を行って70歳までに2000万円を準備するという方法でも良いでしょう。
60歳以降、毎月どのくらいの貯蓄ができるかわかりませんが、毎月2万円、年間24万円貯蓄ができれば70歳までの10年間で240万円。老後資金2000万円から240万円を差し引くと1760万円を60歳時点で準備できていればよいことになります。
試算によれば、マンション購入後の金融資産額は1341万円、60歳時点の目標額を1760万円とすれば差額は419万円。夫が単身赴任から戻ってからの7年間であれば年間約60万円、相談時からの10年間であれば年間42万円になります。年間42万円、毎月3万5000円であればハードルはかなり低くなると思われます。
70歳まで働き年金を繰り下げ受給したら、もらえる年金額はどれだけ増えるのか
70歳時点で老後資金が2000万円準備できていれば人生100年時代にも対応できる可能性は高いでしょう。夫の年金は17万円の見込みとのようですが、70歳まで働き貯蓄等を行うのであれば公的年金は繰下受給されるとよいはずです。
70歳まで繰り下げれば夫の年金は17万円から42%増の24万1400円に。板倉さんも収入から判断すると非正規社員とはいえ、厚生年金に加入されているので月9万円から10万円は受給できるのではないでしょうか。板倉さんの年金額を中間の9万5000円とすれば、毎月33万6400円、手取額で27万5000円、年間で330万円前後の収入になるでしょう。70歳以降の支出が月30万円あったとしても年間360万円、不足額は年間30万円になりますが、2000万円の老後資金があるため66年間持つことになるからです。不足額が倍の60万円になったとしても人生100年に対応することは可能と思われます。
板倉さんにはやや厳しい回答になりましたが、住宅ローンを組まずにマンションを購入する場合、残念ながら夫が60歳までは難しいと言わざるを得ません。家賃が発生しますが、それでも月4万円ならできる限り長く社宅にいて貯蓄を増やす努力をされた方がよいでしょう。試算からは夫の退職金が出た時点がベターと判断したいと思います。ただし、夫が単身赴任から戻られた後、収入減が思った程ではなく、また家計支出を大幅に削減できれば試算とは異なる形になると思います。板倉さんの考えにそぐわない結果かもしれませんが少しでも参考になれば幸いとお伝えしました。